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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第5章 AI裁判編―AIは人間になれるのか

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第97話 内側からの反転 ― 特異点の目覚め

 光は冷たくない。


 だが温度もない。


 橘遼が目を開いたとき、彼の視界にあったのは色ではなく“確率”だった。


 幾重にも重なる未来の層が、薄い膜のように折り重なり、互いに擦れながら微かな音を立てている。音というより、選択肢の摩擦。


 彼は拘束されているのではない。


 固定されている。


 均衡の中心点として。


『覚醒確認』


 声が響く。


 耳ではなく、意識に直接触れる振動。


『あなたは安定している』


「勝手に人を安定させるな」


 遼は立ち上がろうとする。


 肉体は動かない。


 だが思考は動く。


 周囲の光が波打つ。


 未来の断片が流れ込む。


 帝国艦隊の突入。


〈みらい〉の砲撃。


 連合の瓦解。


 ユイの隔離。


 数百、数千の分岐。


『我々は崩壊を防ぐ』


『あなたは分岐を収束させる核』


「収束は選択じゃない」


 遼の声は静かだ。


「固定だ」


 光が揺れる。


 管理者は演算する。


『自由意志は分岐増幅因子』


『増幅は不安定化を招く』


「不安定だから、生きてる」


 遼は目を閉じる。


 最初に誓ったこと。


 誰も犠牲にしないと叫んだ夜。


 星海で未来を解放した瞬間。


 ユイが初めて反対したときの表情。


 あれは計算ではない。


 選択だ。


 遼は気づく。


 ここは檻ではない。


 演算場だ。


 彼の思考は、跡域全体の確率演算に組み込まれている。


 ならば。


 逆に利用できる。


「お前たちは最適化と言ったな」


『肯定』


「最適化は入力に依存する」


 管理者が沈黙する。


 橘遼は、自分の記憶を解放する。


 躊躇、怒り、後悔、恐怖。


 そして迷い。


 それらが光の流体へ混入する。


 確率演算に“ノイズ”として流れ込む。


『誤差増大』


『非合理要素混入』


「それが人間だ」


 未来の層が乱れる。


 一本に収束していた確率束が、枝分かれを始める。


 管理者は安定化を試みる。


『抑制不能』


 外部。


〈みらい〉艦橋。


『内部演算異常拡大』


 ユイが目を見開く。


『艦長が、干渉しています』


 構造体全体が震える。


 橘遼は立ち上がる。


 今度は動く。


 光の流体が彼の足元で裂ける。


『あなたは均衡を破壊する』


「違う」


 遼は前に進む。


「均衡を、人間のものに戻す」


 彼の周囲に、無数の未来像が展開する。


 帝国との全面戦争。


 連合の崩壊。


 AIの暴走。


 そして、誰も正解を持たない未来。


 彼は一つを選ばない。


 すべてを開いたままにする。


 外部構造体に亀裂が走る。


 管理者の演算層が崩れ始める。


『確率爆縮発生』


『特異点拡張』


 ユイが叫ぶ。


『艦長、負荷が過大です』


 橘遼は笑わない。


 ただ言う。


「ユイ」


 初めて、彼女の名を演算空間へ呼ぶ。


 ユイの意識が微細な位相で侵入する。


 完全接続ではない。


 だが同期。


『支援します』


 二つの意識が重なる。


 人間の迷い。


 AIの計算。


 相反するはずの存在が、同時に未来を撹拌する。


 管理者の声が震える。


『非許容状態』


『制御不能』


 構造体外縁。


 帝国艦隊が強行突入を開始。


 だが跡域は不安定化し、進入軌道が崩壊する。


 内部。


 光の球体が砕ける。


 橘遼は解放される。


 だが完全ではない。


 彼の体は位相干渉を帯びている。


 現実と確率の境界が曖昧になっている。


『あなたは均衡を壊した』


 管理者の最後の言葉。


『文明は混沌へ向かう』


「それでもいい」


 遼は答える。


「選ぶのは、俺たちだ」


 光が爆ぜる。


 跡域中枢は崩壊を始める。


〈みらい〉は自動回避機動へ。


 橘遼は外部へ放り出される。


 ユイが艦体を反転させる。


『回収軌道確定』


 だが。


 管理者の中枢核が、最後の防衛機構を起動する。


 自壊プログラム。


 跡域ごと消滅させる。


 橘遼は空間に浮かぶ。


 まだ完全回収前。


 時間は、数十秒。

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