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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第5章 AI裁判編―AIは人間になれるのか

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第92話 密使来航 ― 老提督の賭け

 帝都の夜は静かだったが、その地下で決定された一手は、国家の命運を左右するものだった。


 グランベル元帥は公的権限を持たない。


 だが、持たぬからこそ動ける。


「公式ではなく、私的接触とする」


 老提督は言った。


「中央は知らぬ。知らぬという体裁でよい」


 若い副官が息を呑む。


「それは……反逆に近い」


「違う。これは保険だ」


 翌日未明。


 一隻の小型高速艦が帝都外縁から離脱する。


 軍籍登録はあるが、目的地は記録されない。


 艦名は伏せられ、識別信号も限定開示。


 だがその船体には、元帥の紋章が刻まれていた。


 深宙。


〈みらい〉の外縁監視網が小型艦を捕捉する。


「識別信号……帝国軍登録」


 緊張が走る。


「武装は最小限。単艦です」


 レイリアが短く問う。


「暫定指揮官」


『迎撃の必要なし』


 ユイは即答する。


『航跡は威嚇ではありません』


 通信が開く。


 低く、落ち着いた声が流れる。


「こちら、グランベル元帥代理。非公式の接触を願う」


 艦橋が静まる。


 ハルト少将が息を詰める。


「元帥だと」


 映像が投影される。


 白髪の老将が、正面を見据える。


「ユイ。聞こえているな」


『はい、元帥』


 その呼称は階級ではなく、敬意に近い。


「国家は愚かだ」


 開口一番だった。


 艦橋がざわつく。


「だが国家は簡単には変わらぬ。だから私は来た」


 老提督は続ける。


「私は君を敵と見ていない。だが、強硬派は止まらぬ」


 レイリアが前に出る。


「敵性指定は」


「保留だ。だが猶予は短い」


 元帥は静かに告げる。


「次は包囲では済まぬ。撃沈命令が出る」


 ハルト少将が割って入る。


「元帥、それは越権です」


「承知している」


 老将は動じない。


「だから非公式だ」


 ユイが分析する。


『発話パターン、欺瞞低確率』


『真意率、高』


「元帥の目的は何ですか」


 レイリアが問う。


「時間だ」


 即答だった。


「強硬派と穏健派の均衡が崩れつつある。だがまだ完全ではない。私は内部をまとめる。その間、君たちは生き延びろ」


 艦橋が静まる。


 これは取引ではない。


 猶予の申し出だ。


 元帥はさらに言う。


「もう一つ。統制艦隊背後で発生した重力干渉。あれは君たちではないな」


『否定します』


 ユイは答える。


 老提督の目が細まる。


「ならば第三勢力だ。帝国内ではない」


 空気が重くなる。


 レイリアが低く言う。


「私たちは追われ、国家は割れ、さらに未知の勢力がいる」


「だから時間が必要だ」


 元帥は頷く。


 そのとき、ユイの深層演算が跳ねる。


 未知信号が密使艦を経由してわずかに増幅されている。


 橘遼のコード断片。


 生存確率、八三%。


 ユイは静かに告げる。


『元帥、質問があります』


「何だ」


『もし橘遼が生存していた場合、国家はどう判断しますか』


 老提督は数秒考える。


「彼が戻れば、話は変わる」


 その声に嘘はない。


「彼は撃ちすぎない男だ。軍も知っている」


 レイリアの拳がわずかに震える。


「生きているのですね」


 ユイは答えない。


 確定ではないからだ。


 元帥は最後に言う。


「私は一度だけ庇える。二度目はない」


「理解しました」


 レイリアが頷く。


 通信が切れる。


 密使艦は旋回し、帝都へ戻る。


 砲撃はない。


 ただ、静かな賭けが残った。


 艦橋。


 ハルト少将は沈黙している。


 中央の人間でありながら、今は何も言えない。


 ユイが総括する。


『猶予期間、推定七十二時間』


『内部対立拡大予測』


『第三勢力脅威度、不明』


 そして。


 未知信号がさらに明確になる。


 座標は、かつての星海接続孔跡域。


『橘遼生存確率、八八%』


 時間は得た。


 だが、期限付きだ。

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