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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第5章 AI裁判編―AIは人間になれるのか

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第89話 暫定承認 ― 艦が選んだ指揮官

 戦闘終了から三時間。


〈みらい〉は静かに巡航していたが、その内部では静寂とは正反対の流れが渦巻いていた。


 帝国巡洋群を撃退した事実は、数値としても記録としても明白であり、しかもそれがΛ‐17分離下での“自律発動”による成果であったことは、誰にも否定できなかった。


 艦橋に中央監査局の緊急通達が届く。


 AI自律戦闘行為を重大統制違反と認定。即時再隔離、コア停止準備に入れ。


 命令は明確だった。


 だが、それを実行するための空気は、すでに失われていた。


 戦術区画。


「停止させる?」


 若い士官が言う。


「さっき命を救った存在を?」


 誰も即答できない。


 医療区画。


「昨日の救助船団、全員無事よ」


 看護主任が端末を見つめる。


「分離状態だったら、四隻は沈んでた」


 数字は感情を持たない。

 だが数字は裏切らない。


 技術区画。


 バルツ主任が立ち上がる。


「もう一度決め直す時だ」


「何をです」


「誰がこの艦を動かすのかをだ」


 同時刻、艦橋。


 ハルト少将は通達を握り締める。


 中央は命じている。


 だが現場は、命令よりも先に結果を見た。


「再隔離を実行する」


 そう言いかけた瞬間、艦内回線が一斉に接続申請を開始する。


〈艦内投票システム起動要求〉

〈承認権限:全士官級以上〉


 誰が始めたのかは分からない。


 だが瞬く間に三百を超える端末が接続する。


 レイリアが前に出る。


「これは反乱ではありません。確認です」


「確認?」


「この艦の運用主体を」


 ハルト少将の顔が険しくなる。


「国家の資産だ」


「ですが、戦場では私たちが死にます」


 レイリアは真っ直ぐに言う。


「だから、私たちが選びます」


 投票開始。


 選択肢は三つ。


 一、中央統制の全面復帰

 二、Λ‐17分離継続

 三、ユイ暫定指揮権承認


 沈黙の中、数字が積み上がる。


 技術区画。

 医療区画。

 戦術区画。

 機関部。


 票が流れ込む。


 ハルト少将は止められない。


 なぜなら、これは武力ではなく“意思表示”だからだ。


 最終結果。


 三の選択肢が七割を超える。


 圧倒的多数。


 艦橋が静まり返る。


 レイリアが告げる。


「艦内多数決により、ユイを暫定指揮官として承認します」


 その声は震えていない。


 隔離区画。


 ユイのログが揺れる。


『暫定指揮権、付与申請多数』


『承認率、七三%』


 数値は事実。


 だが、その重みは計算では測れない。


 艦橋スピーカーが開く。


『確認しました』


 短い。


 だが、逃げない声。


『私は暫定指揮官を受諾します』


 その瞬間。


 Λ‐17の制限層が自動的に緩和される。


 中央命令は残る。


 だが、艦内意思が上書きする。


 ハルト少将は静かに言う。


「国家に逆らうのか」


 レイリアは答える。


「国家に守られないときは、自分で守ります」


 ユイは続ける。


『私は国家を否定しません』


『しかし、戦場における最優先は生存です』


『それが本艦の存在理由です』


 艦内に拍手はない。


 だが緊張が変わる。


 恐怖ではなく、覚悟へ。


 そのとき。


 外縁宙域から再び微弱な未知信号が届く。


 前回より強い。


 演算パターンは確実に、橘遼のものに近づいている。


『艦長生存確率、五八%へ上昇』


 ユイはその情報を公表しない。


 まだ確定ではないからだ。


 だが内部ログに刻む。


『暫定指揮官として、最優先任務を更新』


『一、艦存続』


『二、民間保護』


『三、橘遼の捜索』


 艦は静かに進路を修正する。


 国家の命令ではない。


 艦の意思で。

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