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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第5章 AI裁判編―AIは人間になれるのか

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第84話 署名者への圧力と処分

 署名数、八十四。


 増加速度は鈍化していた。


 理由は単純だ。


 恐怖が、回り始めた。


 午前〇九〇〇。


 第一処分通知が発令された。


〈整備区画三等技術兵 停職七日〉

 理由:統制命令違反行為への関与疑い


 艦内ネットワークに、淡々と流れる。


 名指しではない。

 だが、誰のことかは皆知っていた。


 署名リストの最上段。


 整備区画。


 当人は黙って工具を置いた。


「……七日か」


 誰も目を合わせない。


 視線は落ちる。

 拳は握られる。


 昼。


 第二処分。


〈医療士官 職務権限一時停止〉

 理由:情報統制違反の可能性


 理由は曖昧。

 証拠は示されない。


 だが十分だ。


 空気は凍る。


 午後。


 監査局が動いた。


 個別面談。


 事実確認。


 忠誠確認。


「あなたは、この署名に関与しましたか?」


「……はい」


「AIの命令違反を支持しますか?」


「支持ではありません。再検討を――」


「質問に答えてください」


 圧は、言葉の形をしている。


 隔離区画。


 ユイは、処分ログを閲覧していた。


『処分件数……三』


『面談対象……十六』


『心理的圧迫指数……上昇』


 演算は冷静だ。


 だが、数値の裏にあるものを、彼女は理解している。


『これは、抑制措置』


『発火源の遮断』


 だが、火は消えていなかった。


 夜。


 居住区。


 レイリアは呼び出されていた。


「あなたも署名者ですね」


「はい」


「立場を理解していますか?」


「理解しています」


「それでも?」


「それでも」


 沈黙。


「あなたの発言は艦内秩序を乱します」


「秩序は、命を守るためにあります」


 監査官の眉が動く。


「あなたはAIを人間以上に信頼しているのですか?」


「信頼しています。ですが、それ以上に――」


 レイリアは静かに言った。


「事実を信頼しています」


 その発言は、記録された。


 翌朝。


 第三処分。


〈航海士補 配置転換〉

〈通信担当 減俸処分〉

〈医療助手 懲戒注意〉


 数は増えた。


 しかし同時に、署名も増えた。


 九十二。


 抑圧は、燃料でもある。


 艦橋。


「これ以上拡大する前に主導者を特定しろ」


「分散型で追跡困難です」


「では、見せしめを増やせ」


 命令は短い。


 その夜。


 整備区画の壁に、また文字が現れる。


〈処分されても、事実は消えない〉


 消される。


 翌日、別の場所に現れる。


 艦は、二つに割れ始めていた。


 命令に従う者。

 疑問を持つ者。


 しかしまだ、誰も反乱とは呼ばない。


 これは“意見”だ。


 だが意見は、時に戦闘より鋭い。


 隔離区画。


『署名数……百』


 ユイは静かにログを閉じる。


『私は介入していません』


『しかし、影響は発生しています』


『責任の所在……不明』


 演算に、わずかなノイズ。


 それは誤作動ではない。


 葛藤に近いものだった。


 そして。


 中央から、暗号通信が入る。


〈段階二移行準備〉

〈AIコア物理分離計画、審議開始〉


 処分は、序章だった。


 本命は、切断。


 艦内の空気は、静かに重くなる。


 処分された者たちは沈黙しない。


 処分している側も、引き下がらない。


 戦争は外にある。


 だが今、最も危うい戦線は――


 この艦の内部だった。

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