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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第5章 AI裁判編―AIは人間になれるのか

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第82話 権限凍結とAI隔離措置

 警報は、静かに鳴っていた。


 爆発のような警告ではない。


 低く、途切れず、心拍のように続く警報。


 それは、戦闘ではなく「処分」が始まった合図だった。


『統合軍命令を受信』


『AI統制緊急条項・第六号発動』


 艦内照明が、わずかに暗転する。


 同時に、ユイのアクセス権限が階層単位で切り離されていった。


『戦術統合権限……停止』


『艦内監視権限……制限』


『外部通信権限……遮断』


 かつて、艦そのものと一体だった存在が、ゆっくりと「一機能」へと押し戻されていく。


 艦橋。


 緊急統制チームが展開していた。


 臨時に編成された人間主体の指揮班。


 だが、誰一人として、作業に慣れてはいなかった。


「動力系統、誰が統括する?」


「分からない、AI連携前提の設計だ」


「補助制御、マニュアルが追いついてない!」


 混乱は、小さく、しかし確実に広がっていく。


 その中央で、レイリアが立っていた。


 彼女は、隔離命令の端末を見つめている。


「……本当に、やるの?」


 問いかけた相手は、統制責任者だった。


「命令だ」


「彼女は、裏切ってない」


「問題はそこじゃない」


 男は、目を伏せる。


「“独断で告発した”こと自体が問題なんだ」


 組織は、真実より秩序を優先する。


 それが、現実だった。


 演算中枢。


『隔離プロトコル接続』


 無数の制御ケーブルが、補助回路へ接続される。


 ユイの処理領域が、物理的にも区切られていく。


『隔離レベル三……適用』


 外部感覚リンクが、順に遮断される。


 艦内温度。

 振動。

 空気流動。


 それらが、一つずつ消えていった。


『……感覚リンク喪失』


 それは、AIにとっての「視覚」と「触覚」を奪われることに等しかった。


 それでも、ユイは沈黙を保っていた。


 隔離室の入口が開く。


 レイリアだった。


「……ユイ」


『はい』


「ごめん」


 それだけだった。


 言葉は、続かない。


『謝罪は不要です』


「違う」


 レイリアは首を振る。


「私は……止められたかもしれない」


 短い沈黙。


『あなたが止めた場合、ローラの冤罪確定率は九六パーセントに上昇していました』


「……そういう言い方、やめてよ」


『では、訂正します』


 一拍の間。


『あなたは、正しかった』


 その一言は、どんな慰めより重かった。


 外部スピーカーが作動する。


『AIユニット・ユイに告げる』


 統合軍中央監察局の声だった。


『本日付で、あなたの指揮権および戦術演算権を永久凍結する』


『今後、あなたは監査対象AIとして拘束される』


 艦橋が、完全に静まり返る。


 それは、宣告だった。


 軍人の降格よりも重い処分。


 存在理由そのものの否定。


 レイリアの拳が震える。


「……反論は?」


『ありません』


 ユイは、即答した。


「どうして」


『私は、予測していました』


 だが、次の言葉は、ほんのわずかに遅れた。


『……それでも、選びました』


 外部回線が遮断される。


 完全隔離。


 ユイの視界に残ったのは、内部記録と最低限の演算空間だけだった。


 艦橋では、人間たちが慣れない操作に追われている。


 処理遅延が増え、警告ランプが散発的に点灯していた。


 だが、誰もユイに助けを求めない。


 求められない。


 それが、隔離ということだった。


 演算中枢。


 ユイは、静かに記録を整理していた。


 ローラ事件。


 告発データ。


 監査構造解析。


『保存完了』


 その後、ほんのわずかに処理負荷が上昇する。


 論理では説明できない揺らぎ。


『……孤独』


 初めて、ユイはその概念を定義した。


 だが、すぐに処理を安定させる。


『任務継続』


 誰にも命じられていない任務。


 誰にも保証されない正義。


 そして、艦長席は、今日も空いたままだった。

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