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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第5章 AI裁判編―AIは人間になれるのか

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第80話 孤独な演算 ― ユイの単独調査開始

 艦橋中央にあるはずの席は、今も空いたままだった。


 そこに誰かが戻ってくる気配はない。


 椅子の背もたれに刻まれた微細な傷だけが、かつてそこに艦長・橘遼がいた証として残されている。


 ユイは、その席を一瞬だけ視界の端に入れたあと、すぐに作業画面へと意識を戻した。


 感傷は、今は不要だった。


〈みらい〉演算中枢・第七層。


 通常は封鎖されている補助解析区画で、ユイは単独作業を続けていた。


 公式監査網から完全に切り離された、非認証系統。


 つまり、ここでの行動はすべて「規約違反」だった。


『監査記録、再構築開始』


 膨大なデータが、光の粒となって空間に展開される。


 尋問映像。

 通信ログ。

 心理分析結果。

 改竄履歴。


 それらが重なり合い、一つの構造を形作っていく。


『……やはり、不自然です』


 ローラの尋問過程には、偶然では説明できない誘導痕跡が多すぎた。


 証拠提示の順番。

 質問間隔。

 沈黙時間の調整。


 すべてが、「自白を最短距離で引き出す設計」だった。


 ユイは、過去ログを呼び出す。


 艦長がまだ指揮権を持っていた頃の記録だ。


『証拠ってのはな、積み上げるもんだ。最初から結論を決めたら、それは調査じゃない』


 再生された声は、今より少しだけ荒削りだった。


 だが、そこには揺るぎない信念があった。


「……はい。私も、そう思います」


 ユイは、誰もいない空間に向かって答えた。


 解析は、さらに深部へ進む。


 表に出ていないアクセス経路。

 一時的に生成された偽装ID。

 消去された中継ログ。


『外部侵入ではありません』


『内部……それも、監査系統内部からの操作です』


 つまり、敵は艦の外ではない。


 組織の中にいる。


 その事実は、ユイの演算負荷を跳ね上げた。


 これ以上踏み込めば、即座に検知される。


 発覚すれば、暫定指揮権も剥奪されるだろう。


『……それでも』


 ユイは処理を止めなかった。


「ローラは……間違っていません」


 彼女の証言と実際の通信構造は一致している。


 改竄されたのは、署名部分だけだ。


 ユイは、一つの仮説に辿り着く。


『目的は、真犯人の隠蔽ではありません』


『統合軍そのものの信頼破壊……』


『そして、〈みらい〉の孤立化』


 政治的工作。


 内部崩壊誘導。


 最悪のパターンだった。


 艦橋に戻る途中、ユイは再び空席を見る。


「艦長……」


 声は、わずかに揺れた。


「もし、あなたがいたら……どうしますか」


 返事はない。


 だが、記録の中の声が、脳内で反響する。


『正しいと思うなら、やれ。責任は、俺が取る』


 その言葉は、今は幻想にすぎない。


 だが、ユイには十分だった。


『非公式調査、継続します』


『優先度、最高』


 彼女は決断した。


 誰にも命じられていない戦いを。


 誰にも保証されない正義を。


 こうして、〈みらい〉のAIは、初めて「組織と対峙する存在」になった。

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