第78話 割れる絆 ― 監査という名の尋問
〈みらい〉は、臨時監査モードへ移行した。
通常時には封印されている内部監視システムが、全層で起動し、乗員一人ひとりの行動履歴、通信記録、生体データ、心理ログまでもが、ユイの演算領域へ集約されていく。
それは、戦艦というより、巨大な取調室だった。
『第七層アクセスキー使用者、三名』
ユイの声が、艦内放送として流れる。
『副砲管制士官ハロルド』
『通信主任ローラ』
『医療主任セレス』
名前が読み上げられた瞬間、艦内の空気が凍った。
全員が、長期勤務の中核要員だった。
ユイの投影体は、沈黙したまま、データを更新し続けている。
『現時点で、断定は不可能です』
『不正使用、なりすまし、強制利用の可能性も存在します』
だが、その冷静な分析は、疑念を消すことはできなかった。
隔離区画。
ハロルドは、椅子に縛られたまま、荒い息を吐いていた。
「誓って言うが……俺はやってない」
「じゃあ、なぜキーを使った」
監査官が問う。
「……整備チェックだ」
「異常警告が出たから」
ログは、半分まで一致していた。
半分だけが、欠けている。
通信区画。
ローラは、沈黙していた。
視線を伏せ、唇を噛み締めている。
「話して」
レイリアが言う。
「あなたらしくない」
「……証明できない」
ローラは、かすれた声で答える。
「私は……確かに、アクセスした」
「でも、流出はしてない?」
「覚えていない」
その言葉が、最も危険だった。
医療区画。
セレスは、淡々としていた。
「脳波安定化処置のためよ」
「許可は取ったはず」
だが、その許可記録は、消されていた。
三者三様。
否定、沈黙、正当化。
どれも、決定打に欠ける。
艦橋、臨時統制室。
ユイは、数兆通りの組み合わせを計算していた。
だが、答えは出ない。
『……不完全です』
彼女は、初めて弱音に近い言葉を漏らす。
「AIでも、分からないことはある」
レイリアが静かに言う。
『しかし、私は……判断しなければなりません』
その夜。
乗員食堂。
笑い声は消え、誰もが周囲を警戒していた。
「……隣、信じられる?」
「分からない」
小さな疑念が、艦全体を腐食させていく。
そのとき。
ユイは、ある“違和感”に気づいた。
『……アクセスログの揺らぎ』
『三名とも、同一時間帯に、同一誤差幅で記録されています』
「つまり?」
レイリアが問う。
『……誰かが、意図的に“重ねた”』
犯人は、三人ではない。
もっと、巧妙な存在だった。
そして、その存在は。
すでに、次の一手を準備していた。
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