第77話 虚構の刃 ― 捏造される失敗
それは、一つの映像から始まった。
連合圏最大の情報共有網〈リンク・ノード〉に、匿名アカウントが投稿した、わずか三十秒の記録。
〈AI艦長、民間船を“見殺し”に〉
〈合理判断の名の下の大量死〉
刺激的な字幕とともに、崩壊した輸送船の残骸が映し出されていた。
映像には、救難信号を発する民間船と、その背後を通過していく〈みらい〉の艦影が重なっていた。
まるで、ユイが意図的に無視したかのように。
再生数は、数時間で千万を超えた。
怒りは、伝播する。
連合報道局。
「出所は?」
主任記者が問う。
「追跡不能です」
技術班が答える。
「多層偽装、帝国系ネットワークの可能性が高い」
「確証は?」
「……ありません」
その一言で、記事は出された。
疑惑は、事実より早い。
街頭。
「AIは嘘をつく!」
「機械に殺される前に止めろ!」
抗議デモが、各地で発生する。
〈みらい〉艦内。
ユイは、映像を無数の視点から解析していた。
『フレーム歪曲率、〇・〇七秒』
『救難信号のタイムスタンプ、改竄痕あり』
「偽物ね」
レイリアが即答する。
『はい。合成確率、九十八・六パーセント』
「じゃあ、すぐ反論すれば……」
『感情拡散モデルによれば、現時点での訂正効果は、二十一パーセント以下です』
真実は、遅い。
連合評議会、緊急会合。
「このままでは、統合軍は瓦解する」
「AI指揮の正当性が崩れる」
「停止させろ」
宗教圏代表が断言する。
「一時的にでも、ユイを排除すべきだ」
「それは、帝国の思う壺だ」
ラドミールが反論する。
「だが、世論が持たない」
議場は、混乱する。
帝国情報統制局。
「順調だな」
長官は、薄く笑った。
「次は、内部から崩す」
「内部……?」
「乗員の誰かを、“証人”にする」
〈みらい〉、個人区画。
レイリアは、壁にもたれていた。
通信端末には、無数の罵倒。
〈殺人機械の共犯者〉
〈お前も同罪だ〉
「……最悪ね」
扉の向こうで、ユイの声が響く。
『レイリア』
「なに?」
『あなたが、標的になる確率が上昇しています』
「でしょうね」
彼女は笑った。
「艦長の次は、副長よ」
『……申し訳ありません』
「違う」
レイリアは、天井を見上げる。
「これは、戦争よ」
そのとき。
警報。
『機密ログ、外部流出検知』
「なに!?」
『第七層アクセスキーが使用されました』
艦内者しか使えない権限。
「内通者……?」
ユイの演算が、加速する。
『該当者、三名』
そして、彼女は沈黙した。
なぜなら、その中に。
最も、信頼していた名前が含まれていたからだ。
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