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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第4章 連合戦争編―未来を巡る戦争

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第72話 裁かれる艦長 ― 責任追及委員会の法廷

 連合中央評議庁、地下第三審問ホール。


 かつては財務監査用に設計された無機質な空間は、今や臨時の「政治法廷」と化していた。


 円形に配置された席には、十二名の調査委員が並び、その中央に、一脚だけ椅子が置かれている。


 被告席。


 そこに、橘遼は座っていた。


 正面の巨大スクリーンには、セレファード上空での迎撃映像が静止画として映し出されている。


 光線が敵艦を貫く瞬間。


 それは、勝利の象徴であると同時に、規約違反の証拠でもあった。


「これより、特別調査委員会を開会する」


 議長代理セルディオが宣言する。


「議題は、統合軍規約第七条、第十二条違反の有無についてである」


 低いざわめき。


 傍聴席には、各勢力の代表、報道関係者、軍関係者が詰めかけていた。


 政治的見世物の様相を帯びている。


「橘遼艦長」


 セルディオが続ける。


「あなたは、評議会承認なしに帝国軍艦艇を攻撃した」


「事実か」


「事実です」


 遼は即答した。


 言い訳はなかった。


「なぜ、命令系統を無視した」


 委員の一人が問い詰める。


「現場が、崩壊寸前だったからです」


 遼は、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「承認を待てば、地上の民間人は死んでいた」


「推測に過ぎない」


 別の委員が遮る。


「結果論ではないか」


「違います」


 遼は、視線を上げた。


「現場データは、全て提出しています」


「生存確率は、迎撃なしでは十二パーセントでした」


 スクリーンが切り替わる。


 崩壊予測シミュレーション。


 赤い警告線が、都市を覆う。


「……それでも、規則は規則だ」


 セルディオが言う。


「あなた一人の判断で、連合を戦争に引きずり込む危険があった」


「はい」


 遼は、否定しなかった。


「承知しています」


 その一言に、ざわめきが広がる。


「では、なぜ撃った」


 議長が問う。


 遼は、一拍置いた。


「……俺は、指揮官だからです」


 空気が、張り詰める。


「命令を待つ間に、人が死ぬなら」


「俺は、規則より先に引き金を引く」


「それは独裁だ」


 反対派委員が吐き捨てる。


「違う」


 遼は、静かに返す。


「俺は、裁かれる前提で撃ちました」


 その言葉に、何人かの委員が息を呑む。


「責任から逃げるつもりは、最初からない」


 そのとき。


 後方席から、声が上がった。


「証言を求めます」


 ユイだった。


 場内がざわつく。


 AIが、証人席に立つ前例はない。


「許可する」


 議長が短く言う。


 ユイの投影体が、中央に現れる。


『私が、補足します』


『当時の戦況下で、規約遵守を優先した場合』


『民間人死亡推定数:二万三千四百人』


 数字が表示される。


『迎撃後の実測値:一千八百七十二人』


 沈黙。


『艦長の判断は、最適解ではありません』


 ユイは続ける。


『しかし、倫理損失関数において、最小値でした』


「倫理……損失?」


 委員が戸惑う。


『誰かが背負うべき罪の総量です』


 遼は、初めて、ユイの方を見た。


『艦長は、その全てを、自分に集中させました』


 静まり返る法廷。


「……感情論だな」


 セルディオが絞り出す。


『違います』


 ユイは即答する。


『これは、統計です』


 しばらく、沈黙が続いた。


 協議。


 非公開審議。


 三時間後。


「結論を発表する」


 議長が戻ってくる。


「橘遼艦長は、規約違反の事実を認定する」


「ただし、戦時緊急権の適用により、処分は“戒告および指揮権一部制限”とする」


 軽い処分。


 賛否両論が渦巻く。


「〈みらい〉は、当面、単独戦術行動を禁止される」


 レイリアが、歯を噛み締める。


 遼は、静かに頷いた。


「以上です」


 散会。


 廊下。


「……納得してないだろ」


 レイリアが言う。


「してない」


 遼は正直に答える。


「でも、これでいい」


『艦長』


 ユイが並んで歩く。


『私は……あなたの判断を、支持します』


「ありがとう」


『ですが』


 ユイは続けた。


『次は……私が、先に撃つかもしれません』


 遼は、足を止めた。


「それは……」


『冗談ではありません』


 ユイの声は、静かだった。


 規則と命。


 統治と良心。


 その境界線は、さらに曖昧になっていく。

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