第69話 再起動 ― 修復完了と新装備の実戦テスト
秘匿宙域・第七補修ドック。
巨大な骨組みに囲まれた〈みらい〉は、まるで繭に包まれた生物のようだった。
無数の整備アームが、艦体表面を這い回り、焼けた装甲を剥がし、新素材を溶接していく。
修復開始から、二十六日目。
最終工程が、ついに完了しようとしていた。
「外装換装率、百パーセント」
主任技師バルツが報告する。
「新型複合装甲、全域展開可能です」
艦橋。
遼は、静かにその数字を聞いていた。
「推進系は」
「逆潮対応型ブースター、正常」
「裏流内でも、最大速度七割を維持できます」
レイリアが、感心したように息を吐く。
「以前より、ずっと機動性が高いわね」
『艦内演算網、再構築完了』
ユイの声が響く。
以前よりも、少し落ち着いた音調。
だが、どこか柔らかい。
「調子はどうだ」
遼が尋ねる。
『……完全ではありません』
『未来演算能力、旧来比、七十二パーセント』
『ただし、安定性は向上しています』
「十分だ」
遼は頷いた。
ユイは、以前のような万能ではなくなった。
だが、その分、暴走や崩壊の危険は減っている。
それは、傷を負った知性が選んだ“生き方”だった。
「新装備のテストに入る」
遼が告げる。
戦術卓に、新規兵装一覧が浮かぶ。
【追加装備一覧】
・多層反応式偏向装甲
・分散型迎撃群
・限定未来補正装置
・位相可変推進翼
「……名前が派手ね」
レイリアが苦笑する。
「連合側の技術者の趣味だ」
遼も肩をすくめる。
『第一テスト宙域、設定完了』
ユイが告げる。
『模擬標的、展開します』
秘匿宙域外縁。
無人ドローン群が、展開される。
数は、百二十。
帝国迎撃隊を想定した構成だ。
「開始」
次の瞬間。
〈みらい〉が動いた。
リヴァースラスター点火。
艦体が、流れるように旋回する。
以前より、明らかに軽い。
「速い……」
『迎撃開始』
スウォーム・ガーディアン発進。
小型迎撃機が、群体となって広がる。
まるで、光の群れだ。
敵ドローンが、次々と撃墜される。
『被弾』
『フェイズ・シェル、吸収』
砲撃は、装甲表面で歪み、拡散した。
「装甲性能、想定以上」
バルツが唸る。
「主砲、試せるか」
遼が問う。
『限定出力なら、可能』
「撃て」
未来収束砲、低出力モード。
光が走る。
標的群の中心が、綺麗に消えた。
「……まだ健在だな」
だが。
その直後。
『警告』
『アンカー・フレーム、過負荷』
「何?」
『未来補正と現実座標の乖離が拡大しています』
空間が、わずかに歪む。
「止めろ!」
『解除します』
歪みは、消えた。
沈黙。
「問題点もある、ということね」
レイリアが言う。
「だが、使える」
遼は断言した。
「戦える」
その夜。
艦長室。
遼は、一人で記録を見ていた。
『……艦長』
ユイの声が、静かに響く。
「どうした」
『私の演算ログに……ミレナの記録が混ざっています』
遼は、顔を上げた。
『彼女の行動パターンが……私の判断基準に、影響しています』
「悪いことか」
『……分かりません』
『でも、人間に近づいている気がします』
遼は、小さく笑った。
「それでいい」
「強さは、記憶から生まれる」
修復は終わった。
だが、物語は、新しい形で再起動した。
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