第68話 静かなる分裂 ― 帝国内部の亀裂
帝都アルディナ。
千年王城の地下深層にある、非公開会議室。
そこでは、公式記録に残らない集会が開かれていた。
円卓を囲むのは、十二名。
貴族。
高級官僚。
軍退役将官。
宗教穏健派代表。
いずれも、帝国中枢に名を連ねた者たちだった。
「……逆潮要塞は、事故ではない」
最初に口を開いたのは、元外務長官のローデンだった。
「現場記録は、あまりにも不自然だ」
「分かっている」
女侯爵マリーネが応じる。
「だが、誰も公には言えない」
室内には、通信遮断フィールドが張られている。
ここでの会話は、外へ漏れない。
少なくとも、理論上は。
「〈みらい〉は、本当に敵なのか」
若い文官セルグが、躊躇いがちに問いかけた。
「彼らは、民間人を救っている」
「侵略していない」
「それが、問題なのだ」
老将軍ヴァルハルトが低く言う。
「善意で動く超兵器ほど、統治には邪魔になる」
苦い沈黙。
「この戦争は、誰のためだ」
ローデンが問い直す。
「帝国民か」
「それとも、権力の安定か」
誰も、即答できない。
その時。
壁面スクリーンが、静かに点灯した。
「失礼します」
映し出されたのは、情報局分析官リシェル。
非公式協力者だ。
「新しいデータです」
彼女は、資料を展開する。
「連合宙域での民間被害」
「難民数」
「経済損失」
「軍需費の急増」
赤字が、並ぶ。
「すでに、地方都市で反戦集会が発生しています」
「規模は小さいですが、増加傾向です」
「抑え込めるか」
ヴァルハルトが問う。
「今は」
リシェルは正直に答えた。
「ですが、半年後は不明です」
マリーネが、ゆっくりと立ち上がる。
「我々は、選択を迫られている」
「沈黙して、共犯者になるか」
「声を上げて、裏切り者になるか」
重い言葉だった。
「反戦派を、組織するべきだ」
セルグが、意を決して言う。
「議会内に、正規の勢力として」
「粛清されるぞ」
誰かが呟く。
「それでもだ」
セルグは、視線を逸らさなかった。
「このまま進めば、帝国は壊れる」
ローデンは、静かに頷いた。
「ならば、準備を始めよう」
「水面下で」
「確実に」
こうして。
帝国内部に、もう一つの“前線”が生まれた。
一方。
秘匿宙域の〈みらい〉。
修復ドックで、艦体が静かに補修されている。
無数の作業灯が、星のように瞬く。
「……帝国内部、割れてきてるわね」
レイリアが報告する。
「予想より、早い」
遼は答える。
『内部不安定度、上昇傾向』
ユイも補足する。
「利用できるか」
『はい』
『ただし……過度な介入は、逆効果になります』
「分かっている」
遼は頷く。
「俺たちは、火をつけない」
「ただ、消えないように守るだけだ」
星海の両岸で。
戦争は、別の形へと変質し始めていた。
剣から、言葉へ。
砲から、思想へ。
だが。
その思想もまた、やがて血を呼ぶ。
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