第61話 断絶の勅書 ― 帝国の宣戦布告と〈みらい〉封鎖命令
星海暦一二七三年、第四周期。
帝国中央暦において、この日は、後に「第二分岐戦争開幕日」と記録されることになる。
帝都・アルディナ中枢議殿。
白亜と金で彩られた巨大円形議場には、三百を超える貴族席と、高位官僚席が並んでいた。
そのすべてが、異様な緊張に包まれている。
理由は一つ。
中央投影盤に映し出された、一隻の艦影。
現代艦〈みらい〉。
「……以上が、ノルフェル宙域における戦闘記録です」
軍務大臣ヴァルディオが、低く報告を締めくくった。
「帝国艦艇、撃沈七」
「損傷十三」
「民間船団、九割脱出」
議場がざわめく。
誰もが、最後の一行に注目していた。
民間を救った。
だが、そのために、帝国艦を沈めた。
「つまり」
重鎮貴族の一人が口を開く。
「〈みらい〉は、我が軍を敵と見なした、ということか」
「形式上は、そうなります」
ヴァルディオは淡々と答えた。
「救援を名目に、包囲網を突破し、主砲を使用しました」
「ふざけるな!」
別の議員が机を叩く。
「彼らは“客将”のはずだ! 同盟ですらない!」
「だからこそ、危険なのです」
静かな声が、議場を切った。
宰相セリファ=ル=クローディア。
帝国政治の頂点に立つ女。
「統制外の超兵器ほど、恐ろしいものはない」
彼女は、ゆっくりと立ち上がる。
全視線が集まった。
「〈みらい〉は、すでに国家を超えた存在です」
「軍事力」
「情報力」
「未来干渉能力」
「どれを取っても、帝国単独では制御不能」
淡々とした口調。
だが、言葉は刃だった。
「このまま放置すれば」
「いずれ、彼らは“正義”の名の下に、帝国の政策そのものを否定する存在になる」
ざわめきが広がる。
「だから、私は提案します」
セリファは、指を鳴らした。
投影盤が切り替わる。
【対〈みらい〉特別安全保障措置案】
「第一」
「〈みらい〉を“特級危険戦略対象”に指定」
「第二」
「全宙域において、行動制限命令を発令」
「第三」
「補給・通信・修理の全面遮断」
事実上の、封鎖。
戦争未満の宣告。
「……宣戦布告ではないか」
誰かが呟く。
「いいえ」
セリファは微笑んだ。
「まだ、です」
「これは“従うか、滅ぶか”の選択肢に過ぎません」
議場が凍る。
「採決に移ります」
数分後。
結果は、圧倒的多数。
賛成。
「可決」
議長の声が響く。
同時刻。
星海外縁宙域。
漂流状態に近い〈みらい〉。
「……通信、入電」
レイリアが報告する。
「帝国中央、全周波数で一斉送信です」
「映せ」
遼は答える。
ホログラムに、帝国紋章。
そして、公式文書。
『帝国勅令・第七二九号』
『現代艦〈みらい〉を、特級危険戦略対象に指定する』
『即時、指定宙域内にて停泊せよ』
『違反した場合、排除対象と見なす』
淡々と読み上げられる機械音声。
そこに、感情はない。
だが、内容は、宣告だった。
「……封鎖か」
遼は、静かに呟く。
「補給も修理も、できなくなります」
レイリアが言う。
「この状態で……長くは保たない」
遼は、窓の外を見る。
遠くに、帝国監視艦隊の光点。
檻は、すでに完成していた。
「彼らは、俺たちを“危険物”にした」
その時。
微弱な電子音が、艦内に走る。
『……艦長』
かすれた声。
ユイだ。
「ユイ?」
『帝国命令……確認しました』
『このまま従えば……私たちは、解体されます』
遼は、拳を握る。
「……従わない」
低く、しかし確かに言った。
「俺たちは、誰の所有物でもない」
『了解』
ユイの声は、まだ弱い。
だが、そこには意志があった。
こうして。
帝国と〈みらい〉の間に、取り返しのつかない一線が引かれた。
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