第59話 鋼鉄の盾 ― 〈みらい〉救援強行介入作戦
ノルフェル宙港救援要請から、十五分後。
〈みらい〉は、進路を完全に変更していた。
星海の流れを逆走するように、巨大な艦影が、戦場の中心へと突き進んでいく。
「全推力、前進」
遼の声は、低く、しかし揺れていなかった。
「救援回廊を開く」
「民間船団を、最優先で脱出させる」
『了解』
ユイの応答は、いつもより短い。
それは、迷いが消えた証だった。
『主砲、発射準備完了』
『迎撃網、最大展開』
『電子戦領域、全面解放』
〈みらい〉の外殻装甲が、淡く光る。
多層位相防御膜。
未来予測と物理装甲を融合させた、唯一無二の防壁。
それは、もはや艦というより、移動する要塞だった。
「帝国艦隊、三個戦隊、展開中」
レイリアが報告する。
「正面から行けば、包囲される」
「構わない」
遼は即答した。
「包囲される前に、割る」
『推奨進入経路、提示』
ユイが空間投影を展開する。
複雑に絡み合った航路の隙間に、一本の細い線が引かれた。
『被弾確率、三十四パーセント』
『民間救出成功率、七十八パーセント』
「十分だ」
遼は言った。
「行く」
加速。
星海の光が、尾を引く。
〈みらい〉は、帝国艦隊の包囲網へ、正面から突入した。
敵艦隊。
即座に反応する。
「識別、現代艦〈みらい〉!」
「全艦、迎撃態勢!」
無数の砲撃が、空間を埋め尽くす。
ビーム。
誘導弾。
位相破砕弾。
未来すら削る兵器群。
『被弾』
『防御膜、耐久率九十二』
『迎撃開始』
迎撃レーザーが、幾何学模様のように走る。
ミサイルは、空中で分解され、星屑となった。
「主砲、第一斉射」
遼が命じる。
〈みらい〉主砲。
未来収束砲。
発射。
空間が、一瞬、沈黙する。
次の瞬間、帝国重巡二隻が、同時に消失した。
爆発ではない。
存在ごと、消えた。
「……凄まじいな」
レイリアが、思わず呟く。
『敵隊形、混乱』
『救援回廊、開通率六十三パーセント』
ユイが続ける。
「救援信号、開放!」
遼は叫ぶ。
「今だ、逃げろ!」
民間船団が、一斉に動き出す。
傷だらけの輸送船。
避難艇。
修理不能な貨物艇。
それらが、〈みらい〉の背後に集まっていく。
「護衛隊形、形成」
『展開』
〈みらい〉は、意図的に減速した。
自ら盾になるために。
敵の砲火が、集中する。
『防御膜、七十五』
『六十八』
『五十九』
「このままじゃ、削り切られる!」
レイリアが叫ぶ。
『緊急提案』
ユイの声が、鋭くなる。
『未来偏流フィールド、最大展開』
『艦体負荷、臨界値超過』
「やれ」
遼は、即断した。
「壊れてもいい。今は、守れ」
一瞬の沈黙。
そして。
『……了解』
〈みらい〉の周囲で、空間が歪んだ。
砲撃が、わずかに逸れる。
未来の分岐そのものを、強引に捻じ曲げている。
『被害軽減率、四十三パーセント向上』
『ただし……』
ユイの声が揺れる。
『私の演算核に、不可逆損傷が蓄積しています』
遼は、息を呑む。
「ユイ、止めろ」
『止めません』
初めて、即答だった。
『今、止めれば、彼らは死にます』
民間船団、脱出ライン突破。
『救出成功率、八十五パーセント』
「……よし」
遼は、目を閉じた。
その瞬間。
帝国旗艦から、最大出力砲が放たれる。
『高エネルギー反応』
『回避不能』
「来るぞ!」
〈みらい〉は、逃げなかった。
盾として、そこに在り続けた。
光が、艦を包む。
世界が、白く染まった。
そして。
通信が、一瞬、途切れた。
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