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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第4章 連合戦争編―未来を巡る戦争

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第53話 鋼の誘惑 ― 連合に広がる武装論

 エリシア暗殺未遂事件から五日後、ヴァルディス連合議場には、かつてない緊張が満ちていた。


 重厚な円形天井の下、集まった代表者たちは、誰一人として雑談を交わさず、資料を睨みつけるように見つめていた。


 卓上に並ぶのは、被害報告書、防衛計画案、資金試算表、兵站構想図。


 それらはすべて、一つの問いに収束していた。


 我々は、戦うのか。


 最初に口火を切ったのは、山岳伯ディルハルトだった。


「もう十分だろう」


 低く、しかしはっきりとした声だった。


「経済を締め上げられ、代表は殺されかけた。これでまだ話し合いだの、忍耐だのと言うつもりか」


 彼は、分厚い拳で机を叩く。


「連中は、俺たちを潰す気だ。だったら、先に牙を剥くしかない」


 賛同の声が、すぐに上がる。


「正規軍を再編すべきだ」


「傭兵団を正式に雇用しよう」


「独自の砲台網を築く必要がある」


 発言は、次第に過激さを帯びていく。


 もはや防衛ではなく、対抗戦力の構築だった。


 リュシア侯は、静かに手を挙げた。


「理解はします」


 彼女は言った。


「ですが、軍備拡張は、中央の思う壺でもあります。彼らは、我々が武装するのを待っている。そうなれば、“反乱鎮圧”という名目で、正規軍を投入できる」


 場内に、沈黙が落ちる。


 それは、誰もが薄々理解していた現実だった。


「では、黙って殺されろと?」


 若い領主が声を荒らげる。


「代表は狙われ、村は飢え、港は封鎖されている。これ以上、何を我慢すればいい」


 彼の兄は、ノルディアで死んでいた。


 感情は、理屈より重い。


 エリシアは、まだ療養中で、この場にはいなかった。


 彼女の不在が、議論をさらに荒らしていた。


 象徴がいない組織は、すぐに分裂を始める。


 議場の後方で、控えめに手が上がった。


 内政担当官マルセルだった。


「一つ、提案があります」


 全員の視線が集まる。


「段階的防衛化です。全面武装ではなく、治安維持名目での警備隊強化、監視網整備、通信網の独立化を進める」


 彼は資料を広げる。


「表向きは行政改革。実質は、防衛基盤です」


 空気が、わずかに和らぐ。


 妥協案だった。


 だが、ディルハルトは首を振った。


「甘い」


「それで守れるなら、最初から苦労しない」


「帝国は、もっと踏み込んでくる」


 議論は、三時間に及んだ。


 防衛派、穏健派、現実派。


 三つの潮流が、せめぎ合う。


 そして、次第に、防衛派が優勢になっていく。


 理由は単純だった。


 恐怖は、理性より早く伝染する。


 最終的に、仮決議が採択された。


「連合共同防衛構想・第一段階」


 内容は、以下だった。


 各領に常備警備隊の設置。


 重装備の限定配備。


 兵站拠点の共有。


 緊急動員制度の導入。


 表現は穏やかだが、実質は準軍事化だった。


 採決後、リュシアは独りで席に残っていた。


「これで……後戻りできなくなったわね」


 彼女は、呟く。


 誰にも聞かせるつもりのない声だった。


 その頃、帝都。


 情報局本部。


「連合、武装化に着手しました」


 報告官が告げる。


 局長は、満足げに頷いた。


「よし。これで、我々は正義の側に立てる」


 歪んだ論理だった。


〈みらい〉艦橋。


 ユイは、新たなデータを提示していた。


『連合軍備指数、急上昇中。半年以内に帝国との軍事衝突確率、六十一パーセント』


 レイリアが眉をひそめる。


「もう止まらない流れね」


 遼は、長く息を吐いた。


「俺たちが何もしなかった結果が、これか」


『艦長』


 ユイは、はっきりと言った。


『選択を先送りした結果、他者が選択せざるを得なくなったのです』


 それは、責めではなかった。


 事実だった。


 連合は、剣を取る準備を始めた。


 守るために。


 だが同時に、争いへ踏み出す準備でもあった。


 鋼の誘惑は、静かに、確実に、彼らの手を引いていた。

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