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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第4章 連合戦争編―未来を巡る戦争

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第51話 帝国通達 ― 圧力は、紙一枚から始まる

 帝都アルヴェリアの中央政庁において、最初の異変が起きたのは、地方自治連合の設立からわずか七日後のことだった。


 それは、戦争でもなく、演説でもなく、ましてや軍の進軍でもなかった。


 一通の文書だった。


 赤い封蝋に、皇帝直属機関を示す双頭鷲の刻印が押された、公的通達。


 その題名は、あまりにも穏やかで、あまりにも無害に見えた。


「地方統治体制再編に関する指針」


 だが、その中身は、鋭利な刃よりも残酷だった。


 通達の第一条は、こう記されていた。


「帝国全領域における軍事・治安権限は、中央評議会の統括下に置かれるものとする」


 第二条。


「地方独自の防衛組織は、順次解体または再編し、帝国軍編制に編入する」


 第三条。


「許可なき多国間協定、共同防衛契約、情報共有網の構築は、国家安全保障上の脅威とみなし、是正を命ずる」


 すなわち。


 地方連合は、合法的に「危険物」に指定されたのである。


 ヴァルディス。


 連合本部臨時議会。


 使者が通達を読み上げた瞬間、空気が凍りついた。


「……これは、宣戦布告に等しい」


 誰かが呟いた。


 しかし、それは正確ではなかった。


 宣戦布告より、遥かに巧妙だった。


 戦わずに殺すための文章だった。


 エリシアは、静かに文書を閉じた。


 表情は崩れなかったが、指先はわずかに白くなっていた。


「想定より早いですね」


 リュシア侯が答える。


「中央は、我々を“芽のうちに潰す”つもりです。大義名分も、十分に用意している」


 山岳伯ディルハルトが、低く唸る。


「つまり、従えと言っているわけだ。さもなくば、反逆者扱いか」


「正確には」


 エリシアが言う。


「従えば“保護対象”、逆らえば“危険分子”です」


 言葉にすれば、たったそれだけだった。


 通達と同時に、別の動きも始まっていた。


 中央監察官の派遣。


 財務監査。


 補給路の再編。


 関税率の変更。


 宗教認可権の一時停止。


 すべてが、同時多発的に降り注ぐ。


 どれも単体では合法。


 だが、組み合わされると、地方の血流を止める装置になる。


 沿岸侯国では、港の使用制限が発動された。


 山岳地帯では、鉱山の税率が倍増した。


 砂漠領では、水利権の再認可が凍結された。


 銃声は鳴らない。


 代わりに、商人が破産し、兵士が解雇され、村が静かに衰えていく。


 エリシアは、夜遅くまで資料に目を通していた。


 机の上には、赤字で埋め尽くされた帳簿と、救援要請の書簡が積み上がっている。


「圧力の密度が、高すぎる」


 彼女は独りごちる。


「まるで、実験しているみたい」


 どこまで締め上げれば、折れるかを。


 その頃、帝都。


 軍務院地下会議室。


 厚い防音壁に囲まれた空間で、帝国中枢の幹部たちが集っていた。


「順調だな」


 軍務大臣ヴァルグラスが言う。


「暴動も反乱も起きていない。理想的な制圧だ」


 財務長官が頷く。


「経済圧迫は、武力より確実です。死者も出ず、責任も曖昧にできる」


 情報局長が補足する。


「地方世論も操作済みです。連合は『不穏分子の集合体』として浸透しています」


 机上には、偽造に近いほど巧妙な報告書が並んでいた。


「問題は、〈みらい〉だ」


 誰かが言った。


 室内が、わずかに緊張する。


「彼らが連合側に立てば、我々の計画は崩れる」


「だが、今のところ、動いていない」


 ヴァルグラスは薄く笑う。


「何もしない英雄ほど、扱いやすいものはない」


〈みらい〉艦橋。


 中央からの通達は、すでに解析されていた。


『制度的圧力指数、危険域に達しています』


 ユイの報告は淡々としていた。


「地方経済は、半年以内に破綻確率四十七パーセント」


 レイリアが息を吐く。


「殺さずに殺すって、こういうことなのね」


 遼は、黙ってスクリーンを見つめていた。


 連合領域が、赤く染まっていく。


「……俺たちは、また見ているだけか」


 自分に向けた言葉だった。


『艦長』


 ユイが、わずかに声の調子を変える。


『現状維持は、中立ではありません。結果的に、圧力側に加担する行為です』


 それは、もはや助言ではなかった。


 警告だった。


 帝国は、剣を抜かなかった。


 だが、その代わりに、国家そのものを武器にした。


 地方連合は、まだ倒れていない。


 しかし、確実に、追い詰められていた。


 そして〈みらい〉もまた、選択の猶予を、急速に失いつつあった。

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