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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第4章 連合戦争編―未来を巡る戦争

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第50話 地方連合 ― 小さな国々が一つになる日

 ノルディアの惨劇から三週間が過ぎたころ、帝国西方に位置する交易都市ヴァルディスには、かつてないほど多くの旗と馬車と武装兵が集結していた。


 山岳伯領の赤狼旗、沿岸侯国の青帆章、砂漠辺境領の金日輪紋章、それぞれが長年にわたって利害を争い、時には戦火を交えてきた勢力同士でありながら、その日だけは互いに剣を抜くこともなく、ただ沈黙のうちに同じ城門をくぐっていった。


 彼らを動かしたものは、同盟でも理想でもない。


 恐怖だった。


 そして、失望だった。


 ヴァルディス中央議場は、円形の石造建築であり、通常ならば商談や裁判が行われる静かな空間にすぎなかったが、この日は違っていた。


 百を超える領主、代官、軍司令官、宗教代表が集い、その全員が、誰かを信じきれなくなった目をしていた。


 壇上に立ったのは、エリシア・カルヴァーンだった。


 彼女の姿を見て、ざわめきが走る。


 中央との関係を保ってきた穏健派貴族が、あえてこの場に立った意味を、誰もが理解していたからだ。


「諸侯諸賢、本日はお集まりいただき、感謝します」


 彼女の声は、よく通った。


 しかし、それは演説家のそれではなく、数えきれない死を見届けた者の、覚悟のこもった声音だった。


「私は、これまで帝国と〈みらい〉を信頼してきました。彼らは理性的で、公正で、そして人命を最優先に考える存在だと信じていたからです」


 数名の領主が、視線を伏せる。


 彼らも同じだった。


「ですが、ノルディアで、その信仰は終わりました」


 場内が静まり返る。


「救えたはずの命が、救われなかった。判断が遅れ、責任が分散され、誰もが正しかったふりをしている間に、人々は死んでいったのです」


 言葉は、刃のようだった。


 次に立ったのは、山岳伯ディルハルトだった。


 粗野で知られる男だが、その日は鎧も剣も外していた。


「俺たちは、ずっと待っていた。〈みらい〉が来てくれるのを。帝国が決断してくれるのを。だが現実はどうだ。待っている間に、村は焼かれ、子供は埋まった」


 拳が、机を叩く。


「もう待たない。誰かの理想のために死ぬのは、御免だ」


 賛同の声が上がる。


 沿岸侯国代表の女侯リュシアは、冷静に言葉を継いだ。


「問題は感情ではありません。構造です。帝国と〈みらい〉は、あまりにも大きすぎる。巨大な存在は、必ず“全体最適”を選びます。その結果、我々のような周縁は、常に後回しになる」


 彼女は、羊皮紙を掲げる。


「これは、過去五年間の被害統計です。中央防衛圏から離れるほど、救援までの時間は長くなり、死亡率は高くなっている」


 数字は、嘘をつかなかった。


 議場の空気が、変わり始める。


 怒りではない。


 諦念でもない。


 計算だった。


 生き残るための計算。


 再び、エリシアが口を開く。


「だからこそ、提案します」


 彼女は、一歩前に出た。


「我々は、互いを守る組織を作るべきです。帝国に従属せず、宗教にも依存せず、〈みらい〉の判断にも左右されない、地方による地方のための連合を」


 誰かが息を呑む。


 それは、事実上の半独立宣言だった。


「名称は、暫定的に“地方自治連合”とします。軍事協定、情報共有、難民受け入れ、共同防衛網を整備し、一つの領域が攻撃された場合、全員が即座に支援に入る」


 ざわめきが、熱を帯びる。


「それは、帝国への反逆ではないのか」


 老領主が問う。


 エリシアは、即座に答える。


「いいえ。自衛です」


「従うことと、考えることは、同義ではありません」


 長い討議が続いた。


 利害、資源、指揮権、宗教問題。


 すべてがぶつかり合い、それでも誰も席を立たなかった。


 なぜなら、ここで失敗すれば、次に滅ぶのは自分の領地だと、全員が理解していたからだ。


 日が沈む頃。


 最終文書が、卓上に並んだ。


「地方自治連合設立協定書」


 署名は、一人、また一人と増えていく。


 迷いながら書く者もいれば、震える手で刻む者もいた。


 だが、誰も拒まなかった。


 最後に、エリシアが署名した。


 ペン先が、わずかに震えた。


 それは、恐れではない。


 責任の重さだった。


 その夜。


〈みらい〉艦橋。


 ユイは、連合結成の報告を解析していた。


『地方勢力の統合率、予測値を三十二パーセント上回っています』


「……予想以上だな」


 遼は、低く呟く。


「俺たちは、彼らをここまで追い込んだのか」


 レイリアが言う。


「信頼を失った結果よ。武器より怖いのは、それ」


 遼は、スクリーンに映る署名者名簿を見つめる。


 そこには、エリシアの名もあった。


「……俺は、間違っていたのか」


『艦長』


 ユイの声は、穏やかだった。


『間違いではありません。ただ、選択の代償が、可視化されたのです』


 その言葉は、慰めではなく、事実だった。


 地方は、一つになった。


 それは、希望であり、同時に、分裂の始まりでもあった。


 帝国、宗教、〈みらい〉、そして新たな連合。


 四つの力が交差する時代が、静かに幕を開けたのである。

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