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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第4章 連合戦争編―未来を巡る戦争

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第49話 氷の別れ ― 彼女はもう頼らない

 ノルディアの朝は、白かった。


 雪ではない。


 砕けた氷壁と粉塵が、街を覆っている。


 瓦礫の隙間から、まだ湯気が立っていた。


 そこにあった家も、店も、記憶も、消えていた。


〈みらい〉は、低空に留まっていた。


 救援活動は、すでに終盤に入っている。


 生存者は、ほとんど掘り尽くされた後だった。


 遼は、艦から降りていた。


 久しぶりに、地面に立っている。


 靴底に伝わる冷たさが、自分が「ここにいる」ことを嫌というほど知らせた。


 仮設医療所。


 氷結魔法で固められた壁の内側に、負傷者が並んでいる。


 泣き声は、もうない。


 泣き尽くした後の、静けさだけがあった。


 遼は、入り口で立ち止まった。


 中にいる人物を、知っていたからだ。


 エリシア・カルヴァーン。


 白銀の髪は乱れ、貴族の外套は、血と煤に染まっている。


 彼女は、負傷した子供の手を握っていた。


 その指先が、わずかに震えている。


「……伯」


 遼は、そう呼んだ。


 彼女は、すぐには振り向かない。


「……来たのですね」


 声は、穏やかだった。


 それが、何より怖かった。


「……すまない」


 遼は、頭を下げた。


「……俺が……もっと早く……」


「やめてください」


 エリシアは、遮った。


 怒っていない。


 責めてもいない。


 ただ、距離を置いていた。


「謝罪は、必要ありません」

「あなたは、あなたの立場で判断した」


 彼女は、ゆっくりと立ち上がる。


「それだけです」


 遼は、言葉を失う。


「……恨んで……いないのか?」


 問いは、弱かった。


「恨みません」


 即答だった。


「恨むには、期待しすぎました」


 その一言が、胸を抉る。


 二人は、瓦礫の街を歩く。


 かつて市場だった場所。


 今は、穴だらけの空間。


「私は……」


 エリシアが、語り始める。


「あなたを、信じていました」


「中央でもなく、宗教でもなく、あなたなら、人を選ぶと思っていた」


 遼は、俯く。


「……俺は……」


「でも、違った」


 彼女は、空を見る。


「あなたは、“全体”を選んだ」


「その結果、ここが切り捨てられた」


 静かな断罪だった。


「……これから……どうする?」


 遼が尋ねる。


 エリシアは、少し考えた後、答える。


「帝国には、従います」


「でも、あなたには頼りません」


 はっきりと。


「もう、助けを待たない」

「自分で、守ります」


「……敵に……なるのか?」


「いいえ」


 彼女は、首を振る。


「味方でもありません」


 その言葉は、剣より鋭かった。


 別れ際。


 エリシアは、一度だけ振り返る。


「あなたは、優しすぎる」


「だから、遅れる」


「そして、人が死ぬ」


 それだけ言って、去った。


〈みらい〉艦橋。


 遼は、黙ったまま席に戻る。


『……記録……』


 ユイが、静かに告げる。


『……カルヴァーン伯領……対〈みらい〉協力姿勢……低下』


「……分かってる……」


 遼は、呟く。


「……もう……信頼じゃ……動かない……」


 レイリアが、低く言う。


「……それでも……向き合うしかない……」


 遼は、前を見る。


 失ったのは、街だけではない。


 “味方”だった。


 そして、それは取り戻せない種類の損失だった。

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