第42話 王の名の下に ― 地方領主たちの反発
帝国南西辺境、グラーデン侯領。
中央からの街道が細くなり、帝都の威光が薄れていく土地。
「……ふざけるな」
玉座にも似た椅子に腰掛けた男が、布告文を床へ投げ捨てた。
グラーデン侯、ラウル・フォン・グラーデン。
かつて魔獣大侵攻を単独で食い止めた、辺境では“王以上”と恐れられる男だ。
「危険指定?」
「管理対象?」
彼は、鼻で笑う。
「中央は、何を恐れている?」
「鋼鉄の艦か?」
「それとも……自分たちが、もう世界を制御できない現実か?」
側近の老騎士が、静かに口を開く。
「……侯」
「帝国法は、無視すれば……」
「知っている」
ラウルは、遮る。
「だからこそだ」
彼は、窓の外を見る。
そこには、魔獣の跡が残る荒野。
帝都が救わなかった土地。
「〈みらい〉は、ここを救った」
それは、事実だった。
半年前。
南西辺境に出現した“未来侵入型魔獣群”。
帝国軍は、到達できなかった。
だが、空から降りてきた鋼鉄の艦が、一夜で状況を終わらせた。
被害は、最小限。
領民は、生きている。
「中央は、感謝の代わりに鎖を投げた」
ラウルは、立ち上がる。
「……なら、こちらも、立場を明確にする」
ほぼ同時刻。
帝国北部、氷嶺地帯、カルヴァーン伯領。
「……布告は、理解する」
若き女伯、エリシア・カルヴァーンは、冷静に書簡を読み終えた。
「だが、承服はできない」
彼女は、羽ペンを取り、新たな文を書き始める。
「〈みらい〉は、帝国法の外から、帝国を救った存在」
「それを、法の内に無理やり押し込めば、必ず歪みが生じる」
彼女は、ため息をつく。
「……中央は、“管理”と“共存”を取り違えている」
地方から、書簡が集まり始めた。
抗議。
条件付き支持。
そして、沈黙という名の拒絶。
帝国中央庁舎。
「……反発、想定以上です」
内務卿が報告する。
「南西、北部、東方沿岸……複数領が、危険指定の適用除外を要求しています」
軍務卿が、苛立ちを隠さない。
「地方が、何を分かっている?」
「分かっているからこそです」
学術院総監が言う。
「彼らは、“救われた経験”を持っている」
ヴァルヘルム宰相は、静かに呟く。
「……英雄は、いつも中央を困らせる」
〈みらい〉艦橋。
『……地方通信……増加』
『……非公式ながら……支援要請……保護要請……』
ユイが告げる。
「……どうする?」
レイリアが、遼を見る。
「……中央を……無視すれば……完全に……敵になる……」
遼は、少し考えた後、言った。
「……応じない」
「……え?」
「……でも……拒否もしない」
彼は、モニターに映る地方の地図を見る。
「……俺たちは……帝国を……分断するために……来たわけじゃない……」
『……理解します』
「……ただ……」
遼の目が、鋭くなる。
「……選択肢は……一つじゃない……って……示すだけだ」
その判断が、後に“第三の立場”と呼ばれることを、この時、彼らはまだ知らなかった。
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