第43話 密書 ― 鋼鉄へ伸びる手
それは、公式文書ではなかった。
〈みらい〉の通信網に割り込む、古式暗号による極細帯域通信。
帝国中央の監視を避けるため、わざと時代遅れの方式が使われていた。
『……受信……』
ユイが告げる。
『……複数……発信源……地方領主クラス……』
「……来たか……」
遼は、深く息を吐く。
最初の通信は、南西辺境からだった。
「こちらは、グラーデン侯、ラウル・フォン・グラーデン」
映像はない。
だが、声だけで分かる圧があった。
「中央には、知られるな」
「これは……帝国への反逆ではない」
彼は、言葉を選ばない。
「〈みらい〉に、保護を求める」
レイリアが、思わず声を潜める。
「……保護?」
「中央は、いずれ地方を切り捨てる」
ラウルの声は、冷静だった。
「危険指定は、前例だ」
「次は、“協力しない地方”が危険になる」
「我が領は、魔獣と未来侵入の最前線だ」
「だが、帝国軍は来ない」
一瞬の沈黙。
「……民を、守りたい」
それだけだった。
二通目は、北部から。
カルヴァーン伯、エリシア。
「直接の介入は、求めません」
彼女の声は、理知的で、静かだ。
「ただ、知りたい」
「〈みらい〉は、帝国と戦う存在ですか?」
ユイが、遼を見る。
遼は、即答しなかった。
「……俺たちは……帝国を……倒しに……来たわけじゃない」
「……なら……」
「……でも……」
遼は、言葉を続ける。
「……未来を……独占するなら……それは……止める……」
短い沈黙。
「……理解しました」
彼女は、息をつく。
「それだけで、十分です」
三通目は、予想外だった。
帝国東方沿岸。
商業都市国家に近い自治領。
発信者は、名を名乗らない。
「……鋼鉄の艦よ」
声は、若く、軽い。
「うちは、味方にも敵にもならない」
「でも……」
彼は、笑う。
「……未来が、商売になるなら……話は別だ」
レイリアが、即座に拒否する。
「論外」
通信は、即座に遮断された。
艦橋に、沈黙が戻る。
『……記録……』
ユイが言う。
『……地方領主による……非公式接触……本日……三件……』
「……どう見る?」
レイリアが、遼に尋ねる。
「……焦りだ……」
「……中央の法が……“守る”ためじゃなく……“縛る”ためだって……気づき始めてる……」
『……介入すれば……勢力化……避けられません』
「……分かってる……」
遼は、モニターを見つめる。
そこには、帝国全土が映っていた。
「……だから……約束だけ……する……」
「……何を?」
「……未来を……売らない……貸さない……奪わない……」
『……宣言しますか?』
遼は、首を横に振る。
「……まだだ……」
「……宣言は……戦争の……始まりになる……」
ユイが、静かに理解を示す。
『……待機します……』
〈みらい〉は、誰の旗も掲げないまま、帝国の空に留まった。
だが、水面下では、確実に、流れが変わり始めていた。
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