第41話 危険指定 ― 鋼鉄の神を縛る法
帝国中央庁舎、地下第七会議室。
ここには、窓がない。
だが、空気は常に冷たい。
「――以上が、東区旧神殿地下で発生した“未来侵入融合事故”の全容です」
報告官の声が、壁に吸い込まれる。
円卓には、帝国の中枢が揃っていた。
軍務卿、内務卿、宗務院長、学術院総監。
そして、沈黙を守る一人の男。
宰相、ヴァルヘルム・クロイツ。
「……死者は?」
「公式には、七名」
「非公式には……二十を超えます」
重い沈黙。
学術院総監が、指を組む。
「問題は、原因です」
「未来侵入の誘発、融合、そして固定」
彼は、言葉を選んだ。
「……すべてに、〈みらい〉が関与している」
宗務院長が、即座に反論する。
「待て」
「〈みらい〉は、暴徒化した信徒を鎮めた」
「あれがなければ、被害は拡大していたはずだ」
軍務卿が、低く唸る。
「それは結果論だ」
「問題は、国家の許可なく都市上空で“未来操作”を行った点にある」
内務卿が、冷静に続ける。
「民衆は、すでに恐れ始めている」
「“神が未来を止めた”と……」
全員の視線が、宰相に集まる。
ヴァルヘルムは、ゆっくりと口を開いた。
「……では、質問しよう」
彼の声は、静かで、刃のようだった。
「〈みらい〉が存在しなければ、我々は“未来侵入”という概念すら理解できていたか?」
誰も、即答できない。
「……理解できていなかった」
「つまり……」
彼は、指を机に置く。
「我々は、理解できない力に守られている」
宗務院長が、言葉を継ぐ。
「……それは……神話と、何が違う?」
沈黙が、肯定になる。
軍務卿が、結論を急ぐ。
「だからこそだ」
「管理する」
「制御できぬものは、危険として扱う」
内務卿が、書類を差し出す。
「……草案です」
「正式名称《特異戦略存在危険指定法》」
学術院総監が、眉をひそめる。
「……対象第一号は?」
「〈みらい〉」
空気が、凍る。
宗務院長が、低く呟く。
「……救った者を……縛るのか……」
ヴァルヘルムは、目を閉じた。
「……違う」
「救ったからこそだ」
彼は、目を開く。
「神は、法の外に置けない」
「法の外にある存在は、いずれ、法そのものを壊す」
「危険指定と同時に」
内務卿が続ける。
「帝国領内での行動には、事前通告と承認を義務づける」
「拒否した場合――」
軍務卿が、冷たく言う。
「敵性存在とみなす」
決定は、拍手もなく下された。
その頃、〈みらい〉。
『……帝国中央網……機密通信を……傍受』
ユイの声は、淡々としている。
『……〈みらい〉……危険指定……第一号……』
レイリアが、息を呑む。
「……私たち……犯罪者扱い……?」
「……いいや……」
遼は、静かに言う。
「……神扱いだ」
モニターには、帝国の法案文が映る。
「……理解できないから……檻を作る……」
『……艦長……今後の……行動は……制限されます』
遼は、少しだけ笑った。
「……最初から……自由なんて……なかったさ」
彼は、艦橋を見回す。
「……でも……守るものは……変わらない……」
ユイが、静かに応じる。
『……はい……』
その瞬間、帝国全土に向けて、危険指定布告が発せられた。
鋼鉄の守護神は、公式に、“管理対象”となった。
それが、対立の始まりだと、まだ誰も、口にはしなかった。
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