第39話 割れた祈り ― 未来神を巡る分裂
帝都の聖堂は、一夜にして二つに割れた。
同じ神を名乗り、同じ空を仰ぎながら、信徒たちは、互いに背を向け始めた。
「……あの艦は……神ではない……」
南区の旧聖堂。
白髪の老司祭が、静かに語る。
「……未来は……我々自身が……選ぶものだ……」
彼の周囲には、穏やかな祈りを捧げる者たちが集まっている。
一方。
帝都東区、廃墟となった神殿跡。
「……否定など……欺瞞だ……!」
若き説教師、イサークが、群衆の前で叫ぶ。
「……〈みらい〉は……未来を撃ち、世界を選んだ……!」
彼の背後には、鋼鉄の艦を模した粗末な偶像が立っていた。
「……神は……自らを否定してでも……信じる者を……試す……!」
群衆が、熱狂する。
石が掲げられ、松明が揺れる。
その様子は、〈みらい〉にも届いていた。
『宗教勢力……明確に……分裂』
ユイが告げる。
『穏健派……自己選択派……と……過激派……神格化派……です』
「……過激派の……規模は……?」
『増加中です』
『彼らは……未来侵入の……小規模歪みを……“神の兆し”と……解釈しています』
「……最悪の……組み合わせだな……」
レイリアが、歯を食いしばる。
「……あれ……戦争より……危ない……」
その予感は、当たった。
夜明け前。
帝都西区で、爆発が起きる。
魔導倉庫。
兵器ではなく、生活用の魔力結晶庫だった。
「……未来神の……意思だ……!」
現場で、過激派信徒が叫ぶ。
「……旧き世界を……壊せ……!」
帝国軍が出動する。
だが、鎮圧は容易ではなかった。
彼らは、武装していない。
だが、自分たちを正義だと信じている。
『艦長……』
ユイの声が、緊張を帯びる。
『過激派の一部が……〈みらい〉への……接触を……試みています』
「……直接……?」
『はい。彼らは……“神に選ばれるため”……艦へ向かっています』
遼は、即座に立ち上がった。
「……阻止する」
「……どうやって……?」
「……戦わない」
彼は、モニターに映る群衆を見る。
「……あいつらは……神を……求めてるんじゃない……」
「……未来を……誰かに……委ねたいだけだ」
『……同意します』
「……なら……」
遼は、静かに言った。
「……神を……消す」
〈みらい〉が、低空へと降下する。
帝都の夜空を裂き、鋼鉄の艦影が、過激派の集結地点に姿を現した。
松明が揺れ、人々が跪く。
「……神だ……!」
遼の声が、拡声される。
「……違う」
それだけだった。
「……俺たちは……未来を……撃たない」
群衆が、ざわめく。
「……お前たちの……明日は……お前たちのものだ」
沈黙。
やがて、一人が、松明を落とす。
次々に、炎が消える。
だが、全員ではない。
イサークは、歯を食いしばる。
「……偽物め……」
彼の背後で、未来侵入による小さな歪みが、瞬いた。
信仰と未来侵入が、初めて結びついた瞬間だった。
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