第35話 監視下の艦 ― 帝国が抱く三つの思惑
帝国評議会の決定から、三日が過ぎた。
〈みらい〉は帝都上空、指定高度に停泊している。
艦の周囲には、帝国魔導艦が一定距離を保って巡回していた。
「……歓迎って感じじゃないな」
レイリアが、窓の外を見て呟く。
『帝国側の警戒行動は……想定内です』
ユイが淡々と答える。
『現在、帝国内部では……〈みらい〉の扱いを巡り……三つの勢力が対立しています』
「……三つ?」
『はい』
主モニターに、三つの象徴が浮かび上がる。
『第一勢力。軍部強硬派』
赤い紋章が強調される。
『彼らは……〈みらい〉を……兵器として管理・接収すべきと主張しています』
「……まあ……分かりやすいな」
『第二勢力。王権・官僚穏健派』
青い紋章。
『彼らは……〈みらい〉を……外交カードとして保持し……世界均衡の象徴にしたいと考えています』
「……都合よく……使いたいだけ……」
『第三勢力』
最後に、灰色の紋章が浮かぶ。
『……民間・宗教系統』
「……宗教?」
『はい。彼らは……〈みらい〉を……“未来を知る存在”として……信仰の対象にしようとしています』
レイリアが顔をしかめる。
「……それ……一番……やばくない……?」
「……ああ」
遼は、深く息を吐いた。
「神になるなって誓ったそばから……これか」
『艦長……本日……軍部より……技術査察の要請が来ています』
「……来たな」
『また……同時刻に……王権側からは……公式晩餐への招待が』
「……飴と鞭……」
『さらに……』
ユイが、ほんの一瞬、言葉を区切る。
『……民間区画では……〈みらい〉を……直接見たいという……群衆が……集まり始めています』
艦橋に、沈黙が落ちた。
「……全部……断ったら……?」
『……帝国は……内部崩壊します』
「……全部……受けたら……?」
『……〈みらい〉は……神になります』
レイリアが、遼を見る。
「……どうするの……?」
遼は、少し考え、そして言った。
「……全部……半分だけ……受ける」
「……半分……?」
「……軍の査察は……“見せる範囲”を決める」
『了解』
「晩餐は……行く。だが……政治の話は……しない」
『……可能な限り……調整します』
「民間には……」
遼は、窓の外の人々を見る。
空を見上げ、祈り、叫び、希望を重ねる人々。
「……何も……見せない」
「……え……?」
「……近づきすぎたら……壊れる」
『……賢明な判断です』
そのとき、艦橋に警告が鳴った。
『……未来干渉……微弱反応……検出』
「……またか……」
『……帝国領内……複数地点で……“選ばれなかった未来”の……小規模侵入が……始まっています』
遼は、拳を握る。
「……帝国が揺れれば……未来も……揺れる」
「……つまり……」
「……この国の……“内側”も……守らなきゃならない……ってことだ」
〈みらい〉は、監視されながらも、すでに帝国の運命に深く関わり始めていた。
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