第34話 現実との接触 ― 帝国が〈みらい〉を試す日
帝都アル=レグナ上空に、〈みらい〉は静かに停泊していた。
かつてなら、それは侵略の象徴だっただろう。
だが今、鋼鉄の巨艦は、どの陣営にも属さぬ“異物”として、この世界の空に浮かんでいる。
『帝国側より、正式な接触要請』
ユイが告げる。
『王都中央管制塔への、直接通信です』
「……来たか」
遼は、背筋を伸ばした。
「つなげ」
空間投影が起動し、帝国合同評議会の円卓が映し出される。
その中央に立っていたのは、白髪の老将ファルディア元帥だった。
『〈みらい〉艦長、橘遼』
「……こちらが当人だ」
『……あなた方は……我々の世界を……救った』
その言葉は、感謝ではなく、事実確認の響きを帯びていた。
『だが同時に……あなた方は……世界の運命を……勝手に選び直した存在でもある』
「……否定しない」
遼は、静かに応じる。
「だが……それをやらなければ……この帝国も……今の人々も……いなかった」
評議会に、ざわめきが走る。
『……それでも……』
ファルディアの視線が、鋭くなる。
『あなた方は……“どの未来が生きるか”を……決める力を持っている』
「……ああ」
「……なら……」
彼は、言葉を選ぶように、続けた。
『あなた方は……この帝国にとって……味方なのか……それとも……神なのか』
レイリアが、小さく息を呑む。
「……神……」
遼は、首を振った。
「……俺たちは……神じゃない」
「……じゃあ……何だ……」
「……ただの……“選ぶ側”だ」
その言葉が、評議会に重く落ちる。
「この世界の未来を……誰かが独占するくらいなら……俺たちが……みんなの前で……選ぶ」
『……危険な発想だ……』
「……そうだ」
遼は、正面から認めた。
「……だが……誰かが裏で……未来を支配するよりは……よほど……マシだ」
ファルディアは、しばらく黙っていた。
やがて、静かに口を開く。
『……帝国は……あなた方を……信用できない』
「……だろうな」
『だが……拒絶することも……できない』
「……ああ」
『ならば……一つ……条件がある』
「……聞こう」
『〈みらい〉は……帝国の……監視下に入れ』
艦橋の空気が、張り詰める。
『あなた方の力は……あまりにも……世界に近すぎる』
「……つまり……首輪をつけたい……ってことか」
『……そうだ』
レイリアが、遼を見る。
「……どうするの……?」
遼は、少しだけ、笑った。
「……悪くない」
「……え……?」
「……どうせ……隠れても……意味がない」
彼は、評議会を見据える。
「監視しろ。だが……俺たちも……帝国を監視する」
『……相互監視……か……』
「……そうだ」
「……未来は……誰か一人のものじゃない」
ファルディアは、ゆっくりと頷いた。
『……では……〈みらい〉は……帝国の……特別観測艦とする』
『その代わり……』
彼の目が、鋭く光る。
『あなた方は……この世界で……“神にならない”ことを……誓え』
遼は、迷わず答えた。
「……誓う」
だが、その胸の奥で、彼は知っていた。
すでに〈みらい〉は、神と兵器の境界線に、立っていることを。
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