第33話 分岐の王 ― 消えゆく世界の最後の意志
滅びた帝都の中心に聳える黒い城塞は、もはや建造物ではなかった。
それは、ひとつの未来が生き延びようとする意志そのものだった。
空間が歪み、そこから巨大な影の王が立ち上がる。
「……我は……終わらせられた世界……」
その声は、無数の人間の声が重なったものだった。
「……勝ち取った生存を……なぜ……奪う……」
遼は、艦橋の前に立つ。
「奪ってるのは……俺たちじゃない」
「……なら……誰だ……」
「……世界だ」
影の王の身体に、かつての帝国の市民、兵士、子供たちの顔が浮かぶ。
「……我らは……必死に……生きた……それなのに……なぜ……消される……」
レイリアが、思わず叫ぶ。
「……消えてない!……あなたたちは……星海に……いた!」
「……記憶されるだけでは……足りぬ……」
影の王が、こちらを睨む。
「……我らは……現実で……息をしたい……」
ユイの声が、静かに響く。
『あなた方の世界は……他の無数の未来と……同時には……存在できません』
「……それでも……」
『……しかし……』
ユイは、言葉を続ける。
『あなた方は……無意味ではない』
「……?」
『あなた方が……戦い……諦めなかったことが……この世界の……選択肢を……広げました』
影の王が、わずかに揺れる。
「……我らの……敗北が……意味を……?」
『はい。あなた方が……滅びたから……この世界は……別の道を……選べました』
遼は、拳を握る。
「……それでも……」
影の王の声が、かすかに震えた。
「……消えるのは……怖い……」
「……分かる」
遼は、正面から言った。
「俺も……何度も……終わった未来を……見た」
影の遼の記憶が、彼の胸で脈打つ。
「……それでも……全部を……一緒に……生かすことは……できない」
「……なら……我らは……」
「……選ばれなかった」
その言葉が、重く落ちる。
影の王は、しばらく沈黙した後、ゆっくりと頭を垂れた。
「……なら……せめて……」
「……?」
「……我らが……ここに……あったことを……忘れるな……」
『……』
ユイが、強く応じる。
『私は……忘れません』
「……艦長も……」
「ああ」
遼は、静かに答えた。
「……お前たちの未来は……俺たちの中に……残る」
影の王の身体が、穏やかな光へと変わっていく。
「……それなら……」
最後の声が、風のように散った。
「……我らは……負けて……いない……」
黒い城塞が、静かに崩れ、滅びた帝都の位相が、星のように消えていく。
『未来干渉……解消』
帝都の空から、歪みが消えた。
ただ、青い空と、生きている街だけが残る。
レイリアが、涙を拭った。
「……なんで……こんな……」
「……未来って……残酷だな……」
「……いや」
遼は、ゆっくりと言った。
「……未来は……正直なんだ」
〈みらい〉は、再び静かな軌道へ戻る。
だが、彼らの中には、ひとつの滅びた世界が、確かに生き続けていた。
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