第32話 未来侵攻 ― 滅びた世界の軍勢
帝都の空が、二重に重なっていた。
青空の向こうに、黒煙と炎に包まれた“別の帝都”が透けて見える。
瓦礫に埋もれた塔。
崩れ落ちた城壁。
そして、その空を埋め尽くす無数の魔導戦艦。
『……侵入してくる未来分岐、特定』
ユイの声が、緊張を帯びる。
『これは……帝国が滅亡した時間線です』
「……俺たちが……流した未来の一つ……」
「……あの中の人たち……まだ……戦ってる……」
レイリアの声が、震える。
モニターに映る“滅びた帝都”では、兵士たちが、最後の防衛線を張っていた。
彼らは、知らない。
自分たちの世界が、すでに“選ばれなかった”ことを。
『未来干渉、臨界値突破。このままでは……二つの時間線が……強制融合します』
「……融合したら?」
『双方の世界が……崩壊します』
遼は、歯を食いしばる。
「……未来同士の……自滅か……」
滅びた帝都の上空に、巨大な魔導戦艦が姿を現す。
それは、帝国の主力艦であり、本来なら、すでに失われているはずの存在だった。
『……向こうの世界では……あの艦が……最後まで……戦い続けていました』
「……止めるしかない……」
「でも……あの人たち……ただ……生きてるだけ……」
「……分かってる」
遼は、静かに答えた。
「……だからこそ……選ばなきゃいけない」
『……艦長……どの未来を……?』
遼は、窓の外の“生きている帝都”を見つめる。
人々が、空を見上げている。
不安と、しかし確かに存在する日常。
「……この世界だ」
『了解しました』
みらい〉の主砲が、
“滅びた帝都”の位相へと照準を合わせる。
『これは……通常の攻撃ではありません』
「分かってる」
『この砲撃は……“存在してよい未来”と……“存在しない未来”を……切り分けます』
滅びた帝都の艦隊が、こちらへ向けて砲門を開く。
彼らにとって、〈みらい〉は侵略者だ。
『位相主砲……発射準備』
遼は、一瞬だけ、目を閉じた。
影の遼の声が、記憶の奥で響く。
「……後悔するな……」
「……するさ」
だが――
「……それでも……進む」
『発射』
光は、音もなく走った。
それは破壊の光ではない。
分岐を選別するための、未来の刃だった。
滅びた帝都の艦隊が、一隻、また一隻と、光に溶けていく。
爆発はない。
ただ、“存在しなかった”ことになるだけだ。
「……」
レイリアは、歯を食いしばってその光景を見つめている。
『未来干渉……減衰』
「……まだ……終わってない……」
滅びた帝都の中央、黒く歪んだ城塞が、最後の抵抗のように輝き始める。
『……あれは……』
「……何だ?」
『……分岐世界の……中枢意志……“この未来だけは消させない”という……執念です』
黒い城塞が、こちらへと、位相の腕を伸ばしてくる。
未来が、未来を掴み取ろうとしていた。
「……次は……あいつか……」
〈みらい〉の艦橋に、緊張と、決意が満ちていく。
これは戦争ではない。
どの現実が、生き残るかを決める、選別だった。
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