第26話 星海衝突 ― 失われた未来たちの逆流
〈みらい〉は、未来の嵐の中心にいた。
星海の奔流が艦体に叩きつけられるたび、装甲の表面を“記憶の光”が走る。
それは傷ではない。
存在しなかった時間の痕跡だった。
『位相安定率、35%まで低下』
『星海が艦を“分岐核”として再定義しています』
「分岐核……?」
「〈みらい〉が、未来を“どの流れへ戻すか”を決める中枢として認識されたのです」
スクリーンに、幾万もの世界が映る。
帝国に敗れた世界。
侵蝕体に呑まれた世界。
だが、そのすべてに“誰かの生活”があった。
「……また……選べっていうの?」
レイリアの声は、かすかに掠れていた。
「違う」
遼は首を振る。
「ここは選ぶ場所じゃない。流す場所だ」
その言葉に反応するように、星海の光が暗転した。
闇の中から現れたのは、巨大な人型の輪郭。
その体は無数の都市や戦場で構成され、顔の位置には、崩れた世界の断面が浮かんでいる。
『星海中枢意志……顕現』
その存在が、低く、空間を震わせる声を発した。
「選ばれなかった未来は、不要だ。残せば、現実が歪む」
その背後に、影の遼が現れる。
彼は、その巨体の胸部に“縫い付けられる”ように存在していた。
「……艦長」
影の遼が、苦しげに言う。
「俺たちは……あいつに、利用されてる。俺たちの“後悔”を……錨にして……」
「星海が……未選択の意志を使って、未来を固定しようとしている……」
ユイの声が、理解と戦慄を帯びる。
「……だから、あいつは“秩序”を名乗れる。無数の犠牲の上に……」
レイリアの視線が、影の遼へと向く。
「……あんたたちは……それで、納得してるの?」
「してないさ」
影の遼は、かすかに笑った。
「だから……お前たちが来た」
中枢意志が、腕を振り上げる。
そこから、無数の影が生まれ、〈みらい〉へと殺到した。
「迎撃!」
光弾が影を撃ち抜くたび、そこから“誰かの人生”が解き放たれていく。
レイリアの頬を、涙が伝う。
「……お願い……もう……閉じ込めないで……!」
「レイリア」
ユイの声が、優しく重なる。
「あなたは今……未来を、殺しているのではありません。解放しているのです」
星海の嵐が、少しずつ揺らぎ始める。
「無駄だ」
中枢意志が唸る。
「未来は、管理されなければならない」
「違う」
遼は、主砲制御に手を置いた。
「未来は……生きるものだ」
彼の視線が、影の遼と重なる。
「俺たちが失敗したとしても……次の誰かが、やり直せる」
影の遼は、静かにうなずいた。
「……それが……本当の“可能性”か」
〈みらい〉の主砲が、星海中枢意志へ向けられる。
この戦いはもはや、敵との戦闘ではない。
“未来を閉じ込める秩序”そのものへの反逆だった。
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