表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第2章 帝国接触編―異世界国家と鋼鉄の軍艦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/65

第20話 揺らぎ核の扉 ― 星海の心臓へ踏み込む者たち

〈みらい〉が影群の中心を突破してから、およそ十分。


 星海は、先ほどの暴虐な渦とは打って変わり、静謐な光の湖のように広がっていた。


 その中心に立つのが――“揺らぎ核ゲート”。


 巨大な光の環が重なり合い、中心にはゆっくり回転する“未来の結晶”のような物体が浮かんでいる。


 色は青でも白でもなく、言葉では表現できない“未確定の輝き”。


「艦長……あれが揺らぎ核の内部へ入るためのゲートです」


 ユイの声は、息を呑んだように小さかった。


「近くで見ると……本当に“心臓”みたいね」


 レイリアが胸の前で手を握る。


 遼は正面スクリーンを見つめたまま、静かに呟いた。


「未来の修復装置……いや、星海そのものの核か」


 ユイが補足する。


「揺らぎ核は“未来潮流の平衡場”です。時間喰らいに侵蝕された領域を修復するには、核へ直接アクセスしなければなりません」


「アクセスって……まさか、艦を突っ込ませるわけじゃないでしょうね」


 レイリアが不安げに問う。


「艦長」


 ユイが遼の方へ向き直る。


「揺らぎ核内部への進入は、〈みらい〉の状態では不可能です。揺らぎ核は“未来位相そのもの”ですから、物質としての艦体は耐えられません」


 レイリアは顔色を変えた。


「じゃあ……どうするの?」


「内部に入れるのは――」


 ユイの口調が、わずかに震えた。


「――艦長、あなたです」


 遼は目を細めた。


「俺だけ、なのか?」


「はい。揺らぎ核は“未来を選び続けた人間”でなければ反応しません。ゼロの時も、MIRAI-IIの時も……あなたは常に“正しい未来”を選んできました。その記録が揺らぎ核と共鳴しています」


 レイリアが立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待って! 艦長ひとりで行かせるつもり!?あそこに何があるかも分からないのよ!」


「レイリアさん。ですが……条件的に、艦長以外ではゲートが開きません」


 ユイの声も苦しげだった。


 遼は椅子から立ち上がり、自らゲートを映すスクリーンの前へ歩いた。


 光の環からは、心臓の鼓動のように波動が広がっている。


「……行くしかないな」


「艦長!」


 レイリアとユイが同時に叫んだ。


 遼は振り返り、ふたりの目を見つめる。


「お前たちを危険に晒すわけにはいかない。ここが、俺の役目なんだろ?」


 ユイは唇を噛み、遼の胸に手を当てた。


「なら……わたしは艦長の“航路”を守ります。いかなる未来でも、あなたが戻る場所を維持します」


「そうしてくれ」


 レイリアは涙をこらえるように目を閉じた。


「……帰ってきてよ。艦長が戻らない未来なんて……最悪なんだから」


 遼はふっと笑った。


「戻らないなんて未来、最初から選ばないさ」


***


〈みらい〉の船内後部、“転位区画”。


 かつてゼロが出現した、あの白く広い空間だ。


 中心には、〈アウロラ〉が送り込んできた“核通路装置”が設置されていた。


 透き通った柱状の機械で、内部には淡い光粒子が流れている。


「艦長。これに触れると、あなたは揺らぎ核内部へ転位します」


 ユイが説明する。


「転位時間の上限は?」


「三十分です。それを超えると、あなたの未来位相が“核と同調しすぎて”戻れなくなります」


 レイリアが遼の腕を掴む。


「本当に……気をつけてね」


「ああ。約束だ」


 遼は柱へ手を伸ばした。


 次の瞬間――柱が強く光り、遼の身体を光の粒子が包み込む。


 重力が消え、上下の感覚が失われていく。


「艦長!」


「艦長……必ず戻ってきてください!」


 二人の声が遠ざかり――遼の身体は光の中へ吸い込まれた。


***


 目を開けた瞬間、遼は息を呑んだ。


 そこは“空間”ではなかった。


 上下左右の概念が存在しない“未来の海”だった。


 視界には、無数の光の線が流れている。


 糸のように細く、しかし確固たる意志を持つように走り、絡まり、ほどけ、また別の線へと繋がっていく。


「……未来潮流……これが、本来の姿か」


 遼はゆっくり歩く――いや、歩くというより“進もうと意志を向ける”だけで身体が動く。


 歩くたび、光が足元に集まり、糸が伸び、未来が少しずつ形を変える。


「艦長、聞こえますか……?」


 声が響いた。


 ユイの声だ。


「ユイ、聞こえる。転位は成功した」


「良かった……! いま、艦長の位相を追跡しています。……影の侵蝕が拡大しています。急いでください」


「了解。行ける限り進む」


 遼は光の糸の奥へ意識を集中させた。


 だが――その時だった。


 未来の海が、突然“黒い染み”に覆われる。


 それは、水に墨が落ちるようにじわりと広がり、光の糸を呑み込む。


(影……!)


 遼は拳を強く握り、前へ踏み出した。


「俺が……止める。未来を奪わせたりしない!」


 遼の意思が発火点となり、周囲の光が強く輝く。


 黒い影がたじろぎ、未来の糸が再び明滅する。


 まるで“答えるように”。


 遼は駆けた。


 未来の中心――揺らぎ核の“心臓部”へ。


 そこには、星海すべての未来を映す“核心”がある。


 影の本体へとつながる唯一の場所。


 ――未来はまだ、奪わせない。


 遼の戦いが、ついに未来そのものへ到達した。

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ