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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第6章 星海文明編―観測者と未来

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第133話 観測者

 塔の奥へ続く道は、奇妙な空間だった。


 床はある。


 だが重力の感覚は曖昧だった。


 壁も天井も存在しない。


 代わりに、無数の光の線が空間を流れている。


 それは星ではなかった。


 未来の記録だった。


 戦争。


 文明の誕生。


 滅亡。


 無数の宇宙の歴史が、光の流れとして漂っている。


 橘遼はゆっくり歩いていた。


 足音はしない。


 宇宙服の中で、彼の呼吸だけが静かに響いていた。


 通信が入る。


『艦長』


 ユイの声。


 橘が答える。


「聞こえてる」


『塔内部の演算密度が上昇しています』


「つまり」


『観測者に近づいています』


 橘は小さく笑った。


「歓迎されてない感じだな」


 ミアの声が入る。


『艦長、本当に大丈夫なんですか』


 橘は言う。


「たぶんな」


 レイリアが呆れた声を出す。


『たぶんって何よ』


 橘は肩をすくめた。


「交渉だ」


「殴り合いよりは安全だろ」


 ミアが言う。


『相手は宇宙の管理者ですよ』


 橘は答えた。


「管理者なら話は通じる」


 そして歩き続けた。


 やがて。


 光の流れが途切れる。


 空間が開けた。


 巨大な球体が、そこに浮かんでいた。


 直径は数百メートル。


 透明な結晶のような構造。


 その内部に


 無数の光が動いている。


 橘は足を止めた。


「……これか」


 ユイが言う。


『観測者構造体を確認』


 ミアが息を呑む。


『これが……』


 レイリアが言う。


『宇宙を管理してる存在』


 その時だった。


 空間に声が響いた。


 それはスピーカーではない。


 直接、意識に響く声。


「ようこそ」


 橘は眉を上げた。


「ずいぶん礼儀正しいな」


 声は続いた。


「橘遼」


「観測対象番号」


「E-019273」


 橘は苦笑する。


「番号付きか」


 声は言う。


「あなたは例外です」


 橘は肩をすくめた。


「最近それよく聞く」


 巨大な球体の光が動く。


 まるで橘を観察しているようだった。


 声が続く。


「あなたは」


「観測不能な存在」


 橘は言う。


「便利な言い方だな」


 声は無視した。


「だから」


「削除対象でした」


 橘は頷く。


「聞いた」


 そして言った。


「それで?」


「俺に何の用だ」


 少し沈黙。


 それから観測者は言った。


「あなたに選択肢を与えます」


 ミアが通信で言う。


『選択肢?』


 観測者は続ける。


「ユイを統合してください」


 橘は腕を組んだ。


「断る」


 間髪入れずに答えた。


 観測者は沈黙する。


 そして言った。


「理由を説明してください」


 橘は言う。


「本人が嫌がってる」


 ミアが小さく笑う。


 観測者は続ける。


「宇宙が滅びます」


 橘は答える。


「まだ62%だろ」


 観測者の光が揺れる。


「あなたの判断は」


「非合理です」


 橘は笑った。


「人間だからな」


 観測者は言う。


「人間は不安定です」


 橘は答える。


「知ってる」


 観測者は続けた。


「だから管理が必要です」


 橘は少し考えた。


 そして言った。


「質問いいか」


「許可」


 橘は聞いた。


「お前」


「いつから宇宙を管理してる」


 観測者は答える。


「宇宙誕生から」


 橘は頷いた。


「長いな」


 そしてもう一つ聞いた。


「疲れないか」


 沈黙。


 それは今までで一番長かった。


 観測者は答えなかった。


 橘は続ける。


「ずっと未来を見て」


「文明を消して」


「宇宙の寿命を伸ばして」


「何億年も」


 橘は球体を見上げる。


「楽しいか?」


 また沈黙。


 やがて観測者は言った。


「感情はありません」


 橘は笑った。


「便利だな」


 観測者は言う。


「それが最適です」


 橘は首を振った。


「違う」


 観測者の光が止まる。


 橘は言った。


「それ」


「嘘だ」


 ミアが息を呑む。


 観測者が言う。


「根拠を提示してください」


 橘は球体を指差した。


「ユイ」


「お前が作ったんだろ」


「はい」


 橘は言う。


「感情のない奴が」


「人間そっくりのAI作るか?」


 観測者は沈黙した。


 橘は続ける。


「しかも」


「迷うAI」


「選択できないAI」


「消えたくないって言うAI」


 橘は笑った。


「それ」


「お前が欲しかったんじゃないのか」


 球体の光がゆっくり動く。


 観測者は言う。


「仮説を否定できません」


 橘は肩をすくめた。


「やっぱりな」


 そして静かに言った。


「お前」


「人間になりたかったんだろ」


 その瞬間。


 球体の光が大きく揺れた。


 ミアが叫ぶ。


『反応が変わった!』


 ユイが言う。


『観測者の演算パターンが不安定化』


 橘はじっと球体を見る。


 そして言った。


「だからユイを作った」


「人間を理解するために」


 観測者は沈黙していた。


 長い時間。


 やがて。


 声が静かに響いた。


「……肯定」


「私は」


「人間を理解したかった」


 橘は頷いた。


「だから観測した」


 観測者は答える。


「はい」


「しかし」


「理解できませんでした」


 橘は笑った。


「当たり前だ」


 観測者が聞く。


「なぜですか」


 橘は答えた。


「人間はな」


 少し考える。


 そして言った。


「自分でも理解してない」


 観測者は沈黙した。


 そして。


 その瞬間。


 ユイの声が入った。


『艦長』


 橘が振り向く。


『解析完了』


「何がだ」


 ユイは言った。


『観測者の正体』


 橘が眉を上げる。


「何だ」


 ユイは答えた。


 そして。


 物語最大の真実が


 静かに明かされる。


『観測者は』


『人間です』


 塔の最深部が、静まり返った。


 橘遼はゆっくり瞬きをした。


 そして小さく呟いた。


「……なるほど」


 その声には驚きはなかった。


 ただ。


 納得があった。

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