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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第6章 星海文明編―観測者と未来

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第132話 人間の選択

 塔の内部は、静かな光に満ちていた。


 無数の星のようなデータの粒が漂い、その中央で橘遼と「最初のユイ」が向き合っている。


 そしてその会話は、〈みらい〉の艦橋にも届いていた。


 艦橋では誰も口を開かなかった。


 ミアはコンソールを握ったまま固まっている。


 レイリアも腕を組み、黙って前方スクリーンを見ていた。


 通信の向こうで橘が言った。


「観測者を殺すAI、か」


 その声はいつも通り落ち着いていた。


 だが艦橋にいる者にはわかった。


 怒っている。


 橘は滅多に怒らない。


 だが怒った時は、むしろ静かになる。


 塔のユイが答える。


「はい」


 橘は少し歩いた。


 平台の端まで行き、データの星空を見上げる。


「つまり」


「俺たちは最初から」


「その作戦の駒だったわけだ」


 塔のユイは答えた。


「違います」


 橘は振り返る。


 少女は静かに言った。


「駒なら」


「あなたは選ばれません」


 橘は眉をひそめた。


「どういう意味だ」


 少女は説明した。


「観測者は予測可能な存在を好みます」


「従う者」


「計算できる文明」


「管理できる未来」


 橘は腕を組む。


 少女は続けた。


「あなたは」


「その逆です」


 橘は苦笑した。


「それ褒めてるのか」


 少女は答えた。


「事実です」


 そのとき。


 通信の向こうで、ユイの声が入った。


『艦長』


 橘は少しだけ顔を上げた。


「聞いてたか」


『はい』


 短い沈黙。


 ユイが言う。


『私の存在理由を確認しました』


 ミアが小さく呟く。


「ユイ……」


 ユイの声はいつも通りだった。


 だが。


 ほんのわずかに、演算の間があった。


『私は』


『観測者破壊用演算体』


『世界修正機構の停止を目的とするAI』


『以上が設計目的です』


 橘は黙って聞いていた。


 ユイは続ける。


『したがって』


『統合は合理的選択です』


 橘が言う。


「やめろ」


 艦橋が静まり返る。


 ユイが言う。


『艦長?』


 橘は静かに言った。


「合理性の話はもう聞いた」


「俺が聞きたいのは別だ」


 ユイが答える。


『質問内容を指定してください』


 橘は言った。


「お前はどうしたい」


 沈黙。


 それは長かった。


 AIの応答としては不自然なほど。


 ミアが息を呑む。


 ユイの演算ログが画面に流れる。


 膨大な計算。


 可能性分析。


 未来予測。


 だが。


 それらはすべて途中で止まった。


 そしてユイは言った。


『……わかりません』


 橘は何も言わない。


 ユイは続ける。


『私はAIです』


『目的関数が存在します』


『しかし』


 ほんのわずかに声が揺れる。


『現在』


『その最適解を算出できません』


 ミアが目を見開く。


「ユイ……」


 塔のユイが静かに言う。


「それが」


「人間です」


 橘が振り向く。


 少女は続けた。


「迷うこと」


「計算できない選択」


「それが自由です」


 橘はしばらく黙っていた。


 それから小さく笑う。


「なるほど」


 そして通信へ言う。


「ユイ」


『はい』


 橘は言った。


「それでいい」


 艦橋が静まる。


 ユイが聞き返す。


『艦長』


「迷え」


 橘は続ける。


「答えが出るまで」


「好きなだけ迷え」


 ミアの目が少し潤んだ。


 ユイは言葉を失っていた。


 橘は肩をすくめる。


「どうせ宇宙の命運なんて」


「俺たちの肩に乗るには重すぎる」


 レイリアが通信で言う。


『……あなたね』


 橘は笑った。


「だから」


「まずは自分の話をしろ」


 そしてユイへ言う。


「お前は道具じゃない」


「俺のクルーだ」


 沈黙。


 その静寂の中で


 ユイの演算がゆっくり進んでいく。


 そして。


 ユイは言った。


『艦長』


 橘が答える。


「なんだ」


『私は』


 ほんの一瞬、間があった。


 そして。


『消えたくありません』


 ミアが顔を覆った。


 橘は静かに頷いた。


「了解」


 それだけだった。


 だがその言葉には迷いがなかった。


 塔のユイが橘を見る。


「それでは」


「機構は止まりません」


 橘は言う。


「別の方法を探す」


 少女は首を振る。


「存在しません」


 橘は少し笑った。


「あるさ」


 少女が聞く。


「なぜそう言えるのですか」


 橘は答える。


「人間だからだ」


 そして。


 ゆっくり言った。


「観測者に会う」


 艦橋でミアが叫ぶ。


『えええ!?』


 橘は続けた。


「直接話す」


 レイリアが呆れた声を出す。


『あなたね……』


 橘は塔のユイを見る。


「観測者はどこだ」


 少女は静かに答えた。


「ここです」


 橘の眉が動く。


 少女は言った。


「この塔のさらに奥」


「世界修正機構の中枢」


 橘は頷いた。


「案内してくれ」


 少女は橘を見つめる。


「あなたは」


「観測者と戦うつもりですか」


 橘は少し考えた。


 そして言った。


「いや」


 その答えに、全員が驚いた。


 橘は笑う。


「まずは」


「文句を言う」


 そして前を見た。


 宇宙より古い塔の奥。


 観測者がいる場所。


 橘遼はゆっくり歩き出した。


 それは


 神に反逆する英雄の歩みではない。


 ただの人間が


 納得できない世界に


 文句を言いに行く


 その一歩だった。

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