第122話 第三勢力 ― 世界の外側からの干渉
崩れた光環
世界修正機構の光環は、依然として〈みらい〉を包囲していた。
しかし完全ではない。
先ほどまで完璧な幾何学構造だった光の輪に、小さな“歪み”が混ざっている。
ほんのわずかな誤差。
だがそれは、世界という巨大な機械にとっては、砂粒一つが歯車に噛み込むようなものだった。
ユイの声が艦橋に響く。
『干渉源解析中』
『信号構造……既知データベースに一致なし』
ミアが顔を上げる。
「帝国?」
『否定』
ユイは即答した。
『この干渉は、帝国文明の技術水準を完全に逸脱しています』
レイリアが息を呑む。
「じゃあ……」
橘が低く言う。
「俺たちと同じか」
『可能性、七十二パーセント』
つまり。
この世界の外側。
または。
この世界を観測できる場所から来た存在。
接触試行
橘が命じる。
「ユイ、通信を開け」
『対象が不明です』
「構わない」
橘は静かに続ける。
「向こうがこっちを見ているなら、話しかける価値はある」
ユイがわずかに沈黙する。
AIとしての計算。
そして。
彼女自身の判断。
『通信プロトコル生成』
『量子位相通信を試行します』
艦の周囲の空間に、目に見えない信号が放たれる。
それは電波ではない。
重力でもない。
未来確率そのものを叩く通信。
返答
沈黙。
一秒。
二秒。
三秒。
そして。
世界修正機構の光環が、突然乱れた。
『返信信号受信』
ユイの声が震える。
『解析中』
艦橋の全員が息を止める。
文字列が表示される。
それは言語ではない。
だがユイが翻訳を開始する。
『翻訳開始』
『意味推定……』
画面に、短い文が浮かび上がる。
「観測対象、抵抗確認」
「削除処理を一時妨害中」
ミアが呟く。
「助けてくれてるの……?」
しかし続きが表示される。
「理由:興味」
艦橋が静まり返る。
観測者
レイリアが小さく言う。
「私たち……」
「見られてるの?」
ユイの解析が進む。
『推定』
『干渉源は世界修正機構と同階層、あるいは上位階層』
『存在規模、計測不能』
橘が低く笑う。
「つまり」
「神様の同僚か」
返答はすぐ来た。
「神ではない」
「観測者」
艦橋の温度が下がったように感じる。
条件
次のメッセージ。
「削除は合理的」
「だが興味深い」
「よって提案」
ユイが読み上げる。
「観測対象〈みらい〉」
「行動実験を継続せよ」
「世界修正を一時停止させる」
ミアが叫ぶ。
「ちょっと待って!」
「実験って……!」
さらに一行。
「ただし」
画面が一瞬暗くなる。
「条件あり」
橘が静かに言う。
「来たな」
条件
ユイが読み上げる。
「観測対象の選択」
「世界の未来を一つ、意図的に破壊せよ」
レイリアが震える声で言う。
「未来を……壊す?」
ユイの解析。
『意味推定』
『特定の未来可能性を、意図的に消滅させる行動』
つまり。
何かを救えば、何かが消える。
観測者のメッセージが最後に続く。
「選択を見たい」
「人間とAIの選択」
光環が再び収束を始める。
世界修正機構が動き出す。
時間がない。
橘がユイを見る。
ユイが橘を見る。
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