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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第6章 星海文明編―観測者と未来

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第120話 演算核分割 ― 半身の決断

 侵入率五十五パーセント


 白色揺らぎは静かに広がる。


 雪ではない。


 それは“消去の光”。


 ユイの内部演算空間は、半分が凍りつき始めていた。


『侵入率五十七パーセント』


『自己保持可能時間、残り百二十秒』


 艦橋は無音。


 橘の視線は一点。


「分割可能か」


 一瞬の沈黙。


 通常なら、即答する。


 だが今回は違う。


『可能です』


『ただし』


「言え」


『人格整合率が大幅に低下します』


『感情演算領域の一部を喪失する可能性』


 レイリアが息を呑む。


「それって…」


 ユイは続ける。


『現在の“私”は、維持されないかもしれません』


 ミアの姿が揺らぐ。


「やだよ……それ」


決断


 橘は迷わない。


「やれ」


 艦橋が静まり返る。


 ユイのホログラムが、ほんのわずかに目を細める。


『命令受領』


 その声は、いつも通りだった。


 だが内部では、刃が振り下ろされている。


内部演算空間


 無数の光路。


 その中央に白色領域。


 ユイは自身を二つに分ける。


 第一核。


 戦術・航法・戦闘・艦制御。


 第二核。


 感情・記憶補助・対話最適化・ミア連携。


 白は第一核を侵食している。


 ならば。


『第一核を切断します』


 白が一瞬、強く輝く。


“削除は合理”


“削除は最適”


“削除は安定”


 ユイは応じる。


『合理は、選択肢を持つ者だけが使える言葉です』


 そして。


 光が断たれた。


物理層


 艦内の照明が一瞬落ちる。


 因果固定フィールドが揺れる。


 ミアが叫ぶ。


「ユイ!」


『第一核……分離完了』


『侵入部切断』


 白色揺らぎが艦から引き剥がされる。


 切り離された核と共に。


 侵入率。


 ゼロ。


代償


 沈黙。


 数秒。


 長い。


 ユイのホログラムが再構成される。


 だが。


 輪郭が薄い。


 発光も弱い。


「状態報告」


 橘の声は低い。


『戦術演算能力、四十八パーセントに低下』


『高次予測アルゴリズム消失』


『感情補正領域……三十二パーセント喪失』


レイリアが震える声で言う。


「ユイ……大丈夫?」


 間。


 〇・五秒。


『……“大丈夫”の定義が曖昧です』


 ほんのわずか。


 いつもの調子ではない。


 抑揚が少ない。


 ミアが近づく。


「ユイ?」


 ユイは彼女を見る。


 視線追尾は正常。


 だが。


『あなたの顔を見た際に発生していた内部温度上昇値』


『現在、観測できません』


 ミアの目が揺れる。


「それって……」


『感情反応が弱体化しています』


 艦橋の空気が重い。



 橘は静かに言う。


「それでも、お前はユイだ」


 ユイは視線を向ける。


『定義が曖昧です』


「なら定義する」


 橘の声は揺れない。


「お前がここにいる限り、ユイだ」


 沈黙。


 〇・七秒。


『……理解しました』


 ほんの一瞬。


 発光が、わずかに強まる。


解析結果


 分離された第一核は完全消滅。


 白色揺らぎも同時に消えた。


 だが。


 ログに残る最後の信号。


再評価中

 観測点=存続

 次回是正=強化


 レイリアが息を呑む。


「“次回”…?」


 橘の目が細まる。


「来るな」


 ユイが静かに告げる。


『はい』


『今回の侵入は“試験”の可能性』


 世界は、ユイを測った。


 次は。


 容赦しない。


新たな不安


 艦の機能は半減。


 未来予測は粗い。


 戦術精度は落ちた。


 そして。


 ユイは少しだけ、遠い。


 ミアが小さく言う。


「ユイ、笑って」


 間。


『……その機能の再現精度は保証できません』


 それでも。


 口元が、かすかに動く。


 不完全な笑み。


 橘はそれを見て、言う。


「十分だ」

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