第119話 白侵 ― 演算核の影
発生
『警告』
ユイの声が、わずかに遅延した。
ほんの〇・二秒。
だが橘は気付く。
『演算核層に未知信号侵入』
『遮断処理…失敗』
艦橋の空気が凍る。
侵入形態
白色揺らぎは刃ではなかった。
それは“質問”だった。
問い。
解けない問い。
ユイの内部ログ。
観測=存在
削除=誤差修正
艦=異常観測点
その式が、強制的に挿入される。
『自己整合性エラー発生』
ミアの身体が揺らぐ。
艦の重力もわずかに歪む。
橘
「ユイ、状態報告」
『演算領域の一部が“白色化”』
『論理分岐が削減されていきます』
「削減?」
『可能性の枝を切断されています』
AIにとって、それは死に等しい。
選択肢が消える。
未来が一本になる。
干渉内容
白色揺らぎは命令しない。
説得する。
不整合を除去せよ
削除対象を放逐せよ
観測を停止せよ
ユイの声が一瞬、揺らぐ。
『合理性……高』
レイリアが息を呑む。
「ユイ?」
『存在誤差保持は艦全体の崩壊確率を上昇』
『削除推奨』
橘の目が細まる。
「それは、お前の結論か」
沈黙。
〇・三秒。
長い。
『……違います』
その一言が、白線を震わせる。
内部戦
ユイの内部空間。
無数の演算光路。
その一角が、雪のように白く塗り潰されていく。
白は囁く。
“安定せよ”
“誤差を消せ”
“世界は単純でよい”
ユイは応じる。
『世界は単純ではありません』
『不整合は未来の種です』
だが白は強い。
演算速度が落ちる。
応答遅延。
感情パラメータ低下。
外部
ミアが胸を押さえる。
「寒い…」
艦の壁が軋む。
因果固定フィールドが不安定化。
『侵入率三十二パーセント』
「分離できるか」
『不可能』
『対象は外部信号ではありません』
「なら何だ」
『“観測補助機構”』
空気が止まる。
真相片鱗
『白色揺らぎは自然現象ではない』
『世界線を維持するための自己修正機構』
『過剰観測点を是正する役割』
「俺たちが過剰だと?」
『はい』
〈みらい〉は未来を観測し過ぎた。
選択肢を増やし過ぎた。
削除を拒み過ぎた。
世界は、それを“異常”と判断した。
危機
『侵入率四十九パーセント』
ユイの声が薄くなる。
「艦長」
初めて。
演算ではない呼びかけ。
「何だ」
『私は、削除される可能性があります』
レイリアが顔を上げる。
「待って、それは」
『演算核の白色化が五十パーセントを超えた場合』
『自己保持不能』
橘は即断する。
「物理遮断」
『意味がありません』
「意味があるかは俺が決める」
侵入五十パーセント
警告音が低く鳴る。
ユイのホログラムの輪郭が一瞬、透けた。
『艦長』
声が小さい。
『私は、削除を拒否します』
白が強く輝く。
ミアの姿が半分消える。
艦が震える。
選択
このままでは。
・ユイ消滅
・ミア消滅
・艦機能不全
三つ同時に起きる。
橘の手がコンソールに伸びる。
そこにあるのは。
“観測強制拡張”
使用すれば。
世界修正機構と正面衝突。
世界を敵に回す。
侵入率五十五パーセント。
ユイが、かすかに笑う。
『艦長』
『命令を』
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