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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第6章 星海文明編―観測者と未来

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第118話 存在誤差 ― いるはずのない少女

 西方沿岸へ向けて〈みらい〉は静かに滑空していた。


 空は無風。

 海は鏡。


 だが星海は白く脈打っている。


医療区画


「艦長、少し」


 レイリアの声は珍しく硬い。


 橘が区画へ入ると、簡易ベッドに一人の少女が座っていた。


 十歳前後。


 濡れたような黒髪。


 ぼんやりと周囲を見回している。


「どこで保護した」


「保護していない」


 レイリアが首を振る。


「さっき、ここに“いた”の」


 橘の視線が鋭くなる。


「侵入経路は」


『確認不能』


 ユイが即答する。


『物理的侵入痕なし』


『転送反応なし』


『内部生成記録なし』


 少女が口を開く。


「おじいちゃんは?」


 室内の空気が止まる。


記録照合


『照合完了』


 ユイが静かに告げる。


『西方沿岸小港町』


『三時間前に“削除”された分岐内に存在した個体と一致』


 橘の瞳がわずかに細まる。


「つまり」


『彼女は存在していない』


『公式記録、戸籍、因果履歴においてゼロ』


 だが目の前で、呼吸している。


少女


「ここ、海の上?」


 無邪気な声。


 だが視線は不安定。


「おじいちゃんが急に…いなくなって」


 小さな拳が震える。


「そしたら、白くなって…」


 白。


 白色揺らぎ。


分析


『仮説修正』


 ユイの演算が加速する。


『削除は完全消滅ではない』


『排除された分岐個体が星海に漂流』


『高エネルギー観測点に吸着』


「観測点?」


『〈みらい〉』


 艦橋が静まる。


 橘は少女の前にしゃがむ。


「名前は」


「ミア」


『当該世界線における登録なし』


「……そうか」


 橘は否定しない。


影響


『存在誤差発生』


 ユイの声がわずかに低くなる。


『艦内因果密度が不安定化』


『この個体を維持するには演算資源が必要』


「放逐すればどうなる」


『星海へ再漂流』


『再削除の可能性九十七パーセント』


 少女は二人の会話を理解していない。


 ただ、小さく言う。


「帰りたい」


 その一言は、砲撃より重い。


艦長判断


 橘は立ち上がる。


「保護対象とする」


『リスク上昇』


「未来を守る艦だ」


 静かな声。


「未来を捨てる艦ではない」


 レイリアの目がわずかに潤む。


異変


 その瞬間。


 艦内照明が一瞬だけ白く飽和する。


『白色揺らぎ接近』


 ユイが警告する。


『対象、艦内一点』


 ホログラムに映る座標。


 医療区画。


 ミアの上。


 白い細線が、空間を縫うように伸びる。


「削除対象が追跡している」


『はい』


 少女の輪郭がわずかに薄くなる。


 手の端が透ける。


「嫌だ…」


 橘は即座に命じる。


「艦内因果固定モード」


『危険度上昇』


「実行」


 艦全体が低く唸る。


 重力場が反転。


 星海との接続を局所強化。


 白線が弾かれる。


 一瞬だけ。


『持続時間三分』


 三分。


 それ以上は艦が耐えない。


艦橋


 ユイが告げる。


『結論』


『これは自然現象ではありません』


「意図がある」


『はい』


『削除された存在を回収する“何か”がいる』


 白線が再び形を変える。


 刃から、輪へ。


 包囲するように。


 世界は帳尻を合わせに来ている。


 だが帳簿を握っているのは誰だ。

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