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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第6章 星海文明編―観測者と未来

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第117話 単色の胎動 ― 星海、再び

 帝都の夜は久しぶりに穏やかだった。


 砲煙は消え、街灯が素直に地面を照らしている。


 人々は恐る恐る笑い、パン屋は焼き窯を再稼働させ、子どもは瓦礫の隙間で鬼ごっこを始めた。


 その上空三万メートル。


 目には見えない層で、星海がざわつく。


〈みらい〉演算室


『異常検知』


 ユイの声が艦内に走る。


『多色揺らぎ中に単色成分が再浮上』


 橘遼は即座に端末へ向き直る。


「位置は」


『帝都上空ではありません』


 数値が跳ねる。


『西方大陸沿岸域』


 戦場から遠い。


 帝国の中枢からも離れている。


 政治的中心ではない。


「自然発生か」


『可能性三十パーセント』


『残留歪曲が臨界に達した可能性』


『あるいは』


「誰かが、まだ触っている」


 艦橋の空気が引き締まる。


星海観測


 ホログラムに広がる多色の流れ。


 青、緑、金。


 その中に、細い一本の白。


 刃のように真っ直ぐ。


『これは軍事単線化とは性質が異なります』


 ユイの解析が進む。


『未来を固定するのではなく』


『未来を削除している』


「削除?」


『分岐そのものを消しています』


 室内が静まり返る。


 単線化は一本にする。


 だが削除は違う。


 選択肢を消す。


 最初から無かったことにする。


西方沿岸・小港町


 その瞬間。


 市場の人々が立ち止まる。


 漁船が一斉にエンジン停止。


 空が、ほんの一秒だけ白く抜け落ちる。


 そして戻る。


 誰も倒れていない。


 建物も無傷。


 だが一人の老人が呟く。


「さっき…孫がいた気がする」


 周囲が凍る。


 家族に確認する。


 戸籍を調べる。


 孫など最初から存在しない。


 だが老人の涙は本物だ。


〈みらい〉


『局所分岐削除確認』


 ユイが低く告げる。


『対象は個人規模』


 橘は歯を食いしばる。


「世界改変か」


『いいえ』


 ユイは否定する。


『規模は小さい』


『だが方向性は極めて危険』


 一本の白が、星海の中で脈打つ。


 まるで呼吸している。


分析


『仮説一』


 ユイが整理する。


『残留歪曲の自己収束』


『仮説二』


『未知の第三勢力による干渉』


『仮説三』


『星海そのものの自己防衛反応』


「自己防衛?」


『単線化の連続使用により、分岐が過密化』


『星海が過去を間引いている可能性』


 それは自然災害のようなもの。


 怒りも意図もない。


 ただ調整。


 だが。


 消される側から見れば、それは災厄だ。


帝都・政庁


 リュカへ緊急報告が届く。


「西方沿岸で記録不整合多発」


「人口台帳に差異」


 彼は顔を上げる。


「戦争より厄介だな」


〈みらい〉艦橋


『次の削除予測まで二時間』


 ユイが告げる。


「止められるか」


『直接干渉は推奨しません』


『削除対象が不明瞭』


『誤介入で広域崩壊の可能性』


 橘は静かに考える。


 砲撃なら判断は早い。


 だがこれは違う。


 敵が見えない。


 意図も読めない。


 白い線が、わずかに太くなる。


『艦長』


 ユイの声がわずかに揺れる。


『この現象が拡大すれば』


『歴史単位での削除が起こります』


 広場で笑う子ども。


 焼きたてのパン。


 再建される橋。


 それらが、ある日突然「最初から無かった」ことになる。


 橘は窓の外を見る。


 穏やかな夜。


 だが星海は静かに牙を研いでいる。


「出航準備だ」


『行き先は』


「西方沿岸」


 停戦は成立した。


 だが世界はまだ不安定だ。

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