第115話 停戦前夜 ― 引き金の影
帝都停戦枠組みの最終署名は、翌日正午。
場所は議会塔中央大広間。
象徴として公開形式が選ばれた。
それ自体が賭けだった。
透明性は正当性を生む。
同時に、標的も明確にする。
帝都・地下通信網
暗号化された短波。
「確認。対象は議長席中央」
「時刻は署名直前」
「象徴を消せ」
地下強硬派残党は、軍の制服を捨て、市民の中に溶け込んでいた。
武器は重砲ではない。
遠距離位相狙撃装置。
未来の分岐を一点で削る、小型干渉器。
致死率は低い。
だが“偶然”を操作できる。
〈みらい〉艦橋
『異常確率集中を検出』
ユイの声が鋭くなる。
『議会塔上空に局所分岐収束』
「単線化の残骸か」
『いいえ。人工的操作』
『狙撃確率を強制上昇させています』
遼は即断する。
「発信源は」
『市街地三点。移動中』
レイリアが歯を食いしばる。
「間に合うの」
『時間は七分』
議会塔大広間
リュカが条約文書を確認する。
報道陣、市民代表、軍観察官。
緊張と希望が混じった空気。
その上空、わずかに光が歪む。
誰も気づかない。
帝都屋上
三人の残党。
装置を展開。
「今だ」
干渉波が発射される。
目標はリュカ。
致命的でなくともよい。
象徴を倒せば、協議は崩れる。
〈みらい〉
『発射確認』
ユイは瞬時に演算。
逆干渉波を生成。
だが直接打ち消せば、存在が露見する。
「どうする」
遼が問う。
『確率再配分を行います』
干渉波の到達点で、分岐を微細にずらす。
撃たれた未来を、外れた未来へ押し流す。
議会塔
光が走る。
一瞬、空気が震える。
リュカの背後の柱が砕ける。
破片が飛び散る。
だが本人は無傷。
悲鳴。
警備が動く。
屋上
「外れた?」
狙撃者が愕然とする。
「確率は九割だった」
その瞬間、南方軍の即応部隊が突入。
抵抗は短い。
大広間
混乱は数分で鎮圧。
リュカは立ったまま、ゆっくり息を整える。
「予定通り進める」
会場が静まる。
逃げない。
それが最大の反撃。
〈みらい〉艦橋
『暗殺未遂阻止成功』
遼は短くうなずく。
「これで地下は表に出たな」
『はい。強硬派残存網の一部を特定』
正午
条約文書に署名が入る。
拍手は小さい。
だが確かな音。
星海
多色は揺れながらも保たれている。
刃のような単色は現れない。
『停戦成立確率、九十一パーセント』
ユイが告げる。
「残り九は」
『報復』
平和は成立した。
だが傷は残っている。
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