第114話 停戦の卓上 ― 未来の条約
帝都上空から見下ろせば、砲撃で裂けた街並みの隙間に、まだ灯りが点っている。
生き残った人々が、壊れた日常を拾い集めている光だ。
その中心、議会塔の臨時会議室。
帝国反戦派暫定政権代表リュカ・エルドランと、〈みらい〉艦長代理として出席したユイの遠隔投影が向かい合っていた。
橘遼は未だ公的な場に姿を現さない。
政治的火種を最小化するため、意図的に表舞台を避けている。
開会
「まず確認したい」
リュカが静かに切り出す。
「第二演算炉崩壊は、貴艦の直接破壊ではないな」
『はい』
ユイは淡々と答える。
『局所単線化への分岐圧力逆流による収束崩壊です』
『物理的爆破ではありません』
室内にいる数名の技術顧問が顔を見合わせる。
破壊ではなく、崩壊。
責任の形が変わる。
「帝国は、単線化軍事利用を違法と認定した」
リュカは続ける。
「貴艦への敵対行為も撤回する」
正式な言葉ではない。
だが事実上の停戦宣言だった。
条件提示
『こちらの要求は三点』
ユイが提示する。
星海干渉装置の恒久禁止
非戦闘員保護協定の締結
未来演算技術の共同監査機関設置
議場がざわつく。
これは軍事同盟ではない。
制度への介入だ。
「主権侵害と受け取る者もいる」
リュカが慎重に言う。
『未来を固定する行為は、全世界への侵害です』
ユイは揺らがない。
沈黙。
やがてリュカが微笑む。
「正論だ」
〈みらい〉艦橋
通信を見守る遼は、言葉を挟まない。
今は剣を置き、制度を鍛える時間だ。
「艦長」
レイリアが小声で言う。
「これで終わるの」
「終わらない」
遼は短く答える。
「だが始まる」
帝都広場
臨時政権が声明を発表する。
「帝国は〈みらい〉との停戦協議を開始する」
群衆は驚き、そして安堵する。
戦争の継続よりも、不確かな和平の方を選ぶ。
条約草案
名称はまだ仮。
だが後に「帝都停戦枠組み」と呼ばれることになる。
核心は単純だ。
未来は共有財だ。
独占しない。
星海
上空の揺らぎは穏やかだ。
多色は静かに流れている。
単色の刃は消えた。
『停戦成立確率、七十八パーセント』
ユイが告げる。
「残り二十二は」
『地下強硬派、ならびに未知因子』
遼は窓外を見つめる。
「未来はまだ割れているな」
『はい』
ユイの声は柔らかい。
『ですが今回は、割れたままでよいのです』
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