第112話 逆流作戦 ― 単線化暴走
帝都上空。
単色に染まり始めた星海の一角が、鋭利な刃のように戦場へ降り注いでいた。
局所単線化。
南方軍の勝利分岐だけが削り取られ、偶然という名の支えが次々と消えていく。
弾薬は届かず、通信は乱れ、撤退路は崩れる。
未来が細く、脆くなる。
〈みらい〉艦橋
『収束半径、拡大中』
ユイの声は冷静だが、演算負荷は限界域に近い。
『中央地下第二演算炉が源点』
「破壊は」
『地下深度が深く、即時性に欠けます』
『ただし』
艦橋中央に、星海モデルが立体投影される。
単色の刃が一点へ収束している。
その周囲は不安定。
『収束は本来、分岐全体の圧力均衡で成り立ちます』
『今回は軍事目的限定の偏向収束』
『逆方向の潮流を当てれば、均衡崩壊を誘発可能』
「逆流させるのか」
『はい』
『単線を固定する圧力を、過剰分岐で飽和させます』
レイリアが息を呑む。
「それって、暴走しないの」
『制御範囲内であれば』
一瞬、間。
『保証は百分の六十二』
低い。
だが選択肢はない。
「やれ」
遼が即断する。
「単線化を暴走させろ。ただし市街地への影響を最小化」
逆流開始
〈みらい〉の艦体が白光を帯びる。
これは砲撃ではない。
星海へ干渉する演算波。
分岐候補密度を局所的に増幅する。
単色の刃へ、多色の奔流がぶつかる。
光が軋む。
帝国中央地下
「収束率低下!?」
技術将校が叫ぶ。
ヴァルディア将軍は睨みつける。
「安定させろ」
「不可能です。分岐密度が急増しています」
制御盤の数式が崩れる。
単線化演算は、選別を前提とする。
だが選択肢が洪水のように流れ込めば、処理は破綻する。
帝都戦線
南方軍前線。
故障していた弾薬搬送車が再起動。
途絶えていた通信が回復。
崩れていた橋脚が、偶然にも倒壊せず持ちこたえる。
「戦況が戻っている」
南方軍指揮官が叫ぶ。
未来が再び広がった。
星海
単色の刃がひび割れる。
その中心で、歪みが膨張。
『収束崩壊予兆』
ユイの演算が警告する。
『暴走臨界点接近』
「制御できるか」
『試みます』
しかし。
軍事仕様の演算炉は安全弁を持たない。
収束を維持しようと過負荷をかけ続ける。
帝都中央地下
「炉心温度上昇!」
「停止できません!」
ヴァルディア将軍は理解する。
これは〈みらい〉の攻撃だ。
だが直接砲撃ではない。
未来そのものへの干渉。
「止めろ!」
しかし遅い。
単線化崩壊
地下演算炉が白光を放つ。
爆発ではない。
収束崩壊。
固定していた分岐が一斉に解放される。
帝都上空。
単色が砕け、多色が奔流となって広がる。
だが制御は粗い。
局所的な未来歪曲が発生。
市街地
一部区域で時間遅延。
別の区域で確率反転。
撃たれた弾が外れ、外れた弾が命中する。
混乱。
『副作用発生』
ユイの声がわずかに揺れる。
『制御不完全』
「被害は」
『限定的。ただし拡大の可能性』
遼は即断する。
「収束波を弱めろ。暴走を抑えろ」
『了解』
逆流を緩和。
奔流が徐々に鎮まる。
結果
第二演算炉、完全停止。
中央地下区画、機能喪失。
単線化装置、破壊的崩壊。
だが。
帝都の一部区域で未来歪曲が残留。
小規模な異常現象が続発。
〈みらい〉艦橋
「勝ったのか」
レイリアが問う。
『戦術的勝利』
ユイが答える。
『戦略的影響は未確定』
遼は帝都の火を見下ろす。
「中央はどう出る」
『強硬派は正当防衛を主張するでしょう』
『我々を国家破壊者と断定する可能性大』
撃たずに終わらせた。
だが傷は残った。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




