第108話 神殿突入 ― 宗教院中枢制圧作戦
分岐爆発の余波は、帝都上空をまだ揺らしていた。
星海は乱流状態。
神託兵器は半壊。
だが宗教院中枢は沈黙しながら生き延びている。
あの地下深層に、単線化演算の核が残っている限り、再起動は時間の問題だった。
「今しかない」
遼は即断する。
「宗教院地下演算中枢を無力化する」
艦橋に緊張が走る。
これは国家への直接攻撃に等しい。
もはや限定戦争ではない。
『地上部隊、最低規模で構成可能』
ユイが提示する。
『目的は占領ではなく、演算炉の停止』
「破壊ではないのか」
『完全破壊は星海全域へ不可逆衝撃を与えます』
『制御停止が最適』
遼はうなずく。
「よし。特殊浸透班編成」
選抜されたのは、連合精鋭と〈みらい〉警備隊混成の十二名。
目的は一点。
未来を縛る鎖を切る。
帝都地下
宗教院中枢は、石造の神殿ではなかった。
地下三百メートル。
巨大な球形演算炉。
光輪の残骸が天井に浮かび、半透明の数式が空間を満たしている。
「侵入者確認」
神官兵が展開。
白衣の下から機械義肢が覗く。
信仰と工学の融合体。
浸透班が交戦開始。
狭い回廊で火花が散る。
魔導弾と実弾が交差。
『艦長』
ユイが共有視界を通じて状況解析。
『中枢炉心に第二演算層を確認』
『単線化補助装置』
「つまり、まだ諦めていない」
『はい』
浸透班隊長が叫ぶ。
「中央扉突破!」
巨大な扉の向こう。
演算炉心。
淡く青い光が脈動する。
中央制御台に立つのは、宗教院最高司祭。
「未来は一つでよい」
静かな声。
「揺らぎは罪だ」
浸透班が銃口を向ける。
だが司祭は動じない。
「あなた方は理解していない。分岐は争いを生む」
「単線は平和だ」
その言葉に、ユイが割り込む。
『平和は選択の結果です』
『強制ではありません』
司祭の目がわずかに揺れる。
「人工知能に倫理を語られるとは」
「語るのは私だ」
遼が通信越しに応じる。
「未来を奪う平和は、支配だ」
司祭が操作盤を叩く。
炉心出力急上昇。
『単線化再試行』
ユイが警告。
『炉心過負荷』
「止めろ!」
浸透班が制御台へ突入。
白衣の神官兵が立ちはだかる。
近接戦。
火花。
血。
隊長が制御結晶を撃ち抜く。
青い光が乱れる。
『出力低下』
『演算崩壊開始』
司祭が崩れ落ちる。
だが最後に笑う。
「分岐はやがて自滅する」
炉心が静かに消灯する。
数式が消える。
空間が静まる。
地上
帝都上空の揺らぎが収束していく。
星海は依然として多色だ。
だが強制的な収束は止まった。
『単線化装置、機能停止確認』
ユイが報告する。
『宗教院中枢、無力化完了』
遼は目を閉じる。
「これで、神の鎖は切れた」
だが。
帝都中央議会。
「宗教院襲撃は国家反逆である」
強硬派将軍が宣言する。
「〈みらい〉を国家敵対存在として再定義する」
拍手が起きる。
戦争は終わっていない。
むしろ明確になった。
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