第107話 分岐爆発 ― 星海の解放
神託兵器の光輪が回転するたび、星海の色が薄れていった。
可能性が刈り取られていく。
選択肢が音もなく消えていく。
帝国艦隊は整然と再編され、聖務艦の砲口は迷いなく〈みらい〉を指していた。
美しい秩序だった。
死んだ秩序だが。
『自由分岐数、臨界値以下』
ユイの演算は冷えている。
『このままでは星海は単線化します』
遼は立つ。
戦場ではなく、思想の断崖に。
「全系、未来潮流接続最大」
艦橋の空気が変わる。
見えない海が、艦を包み込む。
『危険度、極大』
ユイの声は震えていない。
『分岐爆発は、全勢力に無差別影響を与えます』
「知っている」
遼は答える。
「だが、一本の未来に生きるくらいなら、嵐の海のほうがいい」
神託兵器が第二収束段階へ移行する。
光輪が強く輝く。
未来が一本へと締め上げられる。
「ユイ」
『はい』
「やれ」
その瞬間。
〈みらい〉の艦体が白く発光する。
装甲ではない。
分岐演算そのものが燃え上がる。
『未来潮流、逆位相接続』
『分岐開放開始』
音はない。
だが星海が震える。
削られていた未来が、爆ぜる。
帝国艦の一隻が突然回避行動を取る。
命令にない動き。
兵士の迷いが戻る。
聖務艦の砲撃がわずかに逸れる。
ゼロではなくなる。
光輪に亀裂が走る。
神託兵器の演算が追いつかない。
『分岐数、指数増大』
ユイが告げる。
『制御不能域へ移行』
帝都地下。
宗教院。
「何が起きている」
神官たちが叫ぶ。
装置の周囲で火花が散る。
「均衡は我らのものだ」
違う。
均衡は誰のものでもない。
星海に色が戻る。
光が戻る。
未来が溢れる。
だが代償はある。
『潮流乱流化』
『空間歪曲増大』
連合宙域の一角で小規模爆縮。
帝国艦の一隻が位相ずれを起こす。
無秩序もまた暴力だ。
遼は歯を食いしばる。
「全艦救援優先」
敵味方関係ない。
今は自由を守る時間だ。
神託兵器が悲鳴のような振動を放つ。
光輪が砕ける。
だが完全崩壊には至らない。
『神託兵器、自己安定化へ』
ユイが報告する。
『強制単線化再試行』
終わっていない。
分岐は開いたが、神は諦めない。
帝国艦隊の一部が再び統制を回復。
だが今度は揺らいでいる。
従う未来と、反抗する未来が交錯する。
クレイスの艦が通信を開く。
「遼、今だ。中央は混乱している」
エリシアも続く。
「連合は持ちこたえます」
自由は戻った。
だが安定は消えた。
〈みらい〉艦橋。
『艦長』
ユイの声がわずかに低下する。
『分岐爆発の影響、長期化』
『星海はしばらく不安定状態』
「後悔しているか」
『いいえ』
即答。
『未来が複数ある状態が正常です』
遼はうなずく。
「なら次だ」
神託兵器は半壊。
帝国中央は混乱。
だが宗教院は生きている。
そして今。
星海は、誰のものでもなくなった。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




