真っ赤
「奏、また日焼け止め塗んなかったの?」
ソファで項垂れる奏に凪が声をかける。
真っ赤になった首の後ろに保冷剤を当てながら、奏は凪を見上げた。
「……あれ、苦手なんだよ」
凪は呆れたように溜め息をついて、隣の朔を見上げた。
「お前な、そういう管理も仕事の一部だと思えと何度も言ってるだろうが」
朔の言葉に奏は不機嫌そうに視線を向けた。
「……わかってるよ」
「わかってないから言ってんだろうがっ」
語気を強めて言いながら、朔は持っていた保冷剤を奏の頬と額に押しつける。
「冷てっ」
嫌そうな表情で飛び上がり、朔を睨む。
……でも、何も言い返せない。
「全く……見られる仕事だってことを、少しは自覚しろ」
ぶつくさ言いながらも朔は奏の赤くなった部分に丁寧に保冷剤を当てていく。
「別に……日焼けしたって歌は歌える」
不貞腐れる奏に朔の眉があがる。
「お前のは日焼けじゃない、火傷なんだよっ!」
毎度繰り返される攻防。
朔は大きく溜め息をついた。
「……それに、お前のビジュアルに金を払ってるファンだっているんだ」
そう言われて奏は黙った。
側の椅子に座ってそれを見ていた凪が心配そうに声をかける。
「奏、痛くない?」
チラッと目線だけで凪を見上げ、奏は答えた。
「……痛くない」
その時、朔がぱしっと奏のうなじを叩く。
「いってぇーっ!!」
奏の大声が響いた。
凪がくすくす笑う。
「素直じゃないね」
朔はまた大きく溜め息をつく。
「強がるんじゃない、全く……」
そこへ陽がやってくる。
「どしたー?奏の大声聞こえたぞー?」
ニヤニヤしながら、ソファの奏を見下ろす。
朔はまた溜め息を吐きながら、陽を見る。
「毎年のことだよ……」
陽が爆笑する。
「やっぱお前、真っ赤になってんだなー!」
奏は不機嫌になって顔を逸らす。
それに構わず陽は爆笑を続けた。
「だっから、昨日言ったじゃん!!日焼け止め塗れって。懲りねぇやつー」
「……お前も塗ってねぇじゃん」
顔を逸らしたまま奏の低い声が聞こえる。
「俺はそんな赤くなんねーもん」
そう言って前に出した陽の腕はすでに真っ黒だ。
綺麗に日焼けしてる。
それをにこにこしながら見ていた凪が突っ込む。
「陽は野生児だね」
「……え?」
陽の爆笑顔が止まり、凪を見る。
「陽は肌だけじゃなく、色々強いもんね」
悪気の無い凪の笑顔に陽は顔を引き攣らせた。
拗ねていた奏が視線を戻す。
「……俺はお前と違って繊細なんだよ」
そう言う奏に凪も頷く。
「奏は繊細だからね」
奏の肌を冷やしていた朔もふっと笑う。
「そうだな、奏は繊細だからな」
陽はぷるぷると体を震わせた。
「なんで俺が貶されてんだよっ!!」
「別に貶してないよ?」
凪が首を傾げながら、きょとんとする。
「ふっ」
奏が思わず吹き出す。
「……お前は何笑ってんだ」
朔がまたぱしっと奏のうなじを叩く。
「……いってぇって」
叩かれたうなじを手で抑えながら奏は朔を見た。
朔は冷たい目で奏を見返した。
「お前は自分の肌が繊細だってわかってんなら、ちゃんとしろ」
そう言われて奏はまた黙る。
何も言い返せない。
目の前の椅子ではまだ凪がくすくす笑っていた。
それから何か思い出したかのように立ち上がり、冷蔵庫からペットボトルを取り出す。
奏の前まで来ると凪は奏の額にペットボトルを当てる。
ひんやりとした心地よさが奏の顔に広がる。
「奏、これ好きでしょ?」
そう言って奏に手渡す。
奏はペットボトルを手に取って見る。
「……レモンソーダ」
ぽそっと。
しかも、奏の好きな甘くない無糖タイプ。
「よく覚えてんな」
それからふっと笑う。
凪は笑い返した。
「うん、覚えてる」
ぽんっと朔の手が奏の頭を撫でた。
「……なんだよ」
少し恥ずかしそうに朔を見上げる。
「いや……」
朔はそれだけを言って立ち上がる。
奏は複雑な表情で後姿を見ていた。
それから、凪を見て。
「サンキュ」
それだけを返した。
凪は嬉しそうに笑っていた。




