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宵闇に奏でる―NOCTIS STORY  作者: 夜月黎


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いずれNOCTISになる

「んー?」


陽が首をかしげながら、唸っている。


「どうした?」


朔が不思議そうに陽を見た。

腕を組んで、何かを考え込んでいるようだ。


「……やっぱさぁ、ギターいた方がよくね?」


「あぁ、それか……」


朔がふっと笑う。


「なんかあてあんの?」


陽の言葉に朔は少しだけニヤッと笑う。


「次の土曜日、合わせに来るやつがいる」


急に陽のテンションがあがる。


「マジでっ!?どんなやつっ!?」


「この前、奏の歌に聞き惚れてた子だな」


そう言いながら朔はスマホを取り出して、メッセージ欄を開く。


「天音凪、14歳、ギター歴一年」


陽が驚く。


「じ、じゅうよんさい……中学生……」


奏も動きを止めて朔を見ていた。


「ギター歴……一年……」


朔は二人の反応を見て、溜め息をつく。


「まぁ、実際に聞いてみてからだな」


三人とも、不安を隠しきれなかった。



そして、当日。


三人は先にスタジオに入り、準備をしていた。


こんこん。

扉をノックする音が聞こえた。


朔が扉を開ける。

ギターを背負った凪が、恐る恐る入ってくる。


「よろしく、お願いします」


にっこり笑って、ぺこっと頭を下げる。


柔らかい雰囲気の凪を見て、陽は呆気に取られて口を開けている。


「え、ホントに14歳?」


「えっ、そうですけど……」


凪がビクッとして陽を見る。


「陽、怖がらせるな」


朔が注意する。

陽は朔を見返す。


「いや、だってさ、14歳にしては落ち着いてね?」


「……お前が16歳の割に騒がしいだけだろ」


朔の冷たい視線が陽を見下ろした。

陽は何も言えなかった。


そして、奏は……。

マイクの前に立って、黙ったままそれを見ていた。


それに気づいた凪がとてとてと奏に近づく。

奏の前に立つと、柔らかく笑う。


「……今日、ずっと楽しみにしてたんだ……また、歌声聞けるの、嬉しいです」


奏は少し恥ずかしそうに顔を逸らす。


「……あぁ」


凪の顔が少し、曇った。


後ろに来ていた朔が、凪の肩を叩く。


「……奏は口下手なんだ。怒ってるわけじゃないから、心配するな」


凪の顔がぱっと明るくなる。


「うん、わかった」


奏はばっと朔を見上げる。


「朔、うるせぇ」


朔は一瞬だけ奏に視線を向けて、ふっと笑った。


凪がチューニングを始める。


ピンっと細い音が鳴る。

その繊細な音に奏は一瞬だけ、顔をしかめる。

だが、すぐに真顔に戻る。


準備が終わり、全員が位置につく。


陽がスティックを鳴らし、演奏が始まる。


最初から飛ばす奏と陽に、朔がついて行く。


そこへ、凪のギターがのる。


……これは……。


朔は少しだけ顔をしかめた。


奏や陽とは正反対の、澄んだ繊細な音。

二人の勢いに負けるかもしれない……そう思った瞬間。


音が跳ね上がり、芯をくったような真っ直ぐな音が前に出た。


一瞬、陽の音が止まる。

だが、奏は止まらなかった。

すぐに陽の音が追いつく。


朔はいつものように抑えるように音を出そうとした。


しかし、その前に――

奏が凪の音に合わせにいく。


「っ……奏が、合わせにいってる……?」


明らかにいつもと違う。

朔は指を止めそうになってしまった。

陽も異変に気づき、ペースを落とした。


いつもより、音が噛み合っている。


それを朔は感じた。

いつもは、奏と陽の暴走を朔が抑えるような音だ。


でも、今日は凪のギターが暴れる二人の音の間を縫っていく。

そして、何より――

奏が合わせにいっている。


朔は思わず、口元だけで微笑んだ。


――この音は、俺達に必要だ。


そう、感じていた。


そして、演奏が終わる。

いつもの暴走のような音楽とは違った。


奏が凪の前に立った。


「……お前、ホントにギター歴一年か?」


ぶっきらぼうな聞き方。

朔は軽くめまいを覚える。


凪は不思議そうに首を傾げて奏を見返した。


「うん……まだ、一年たってない、かな?」


奏が驚いた表情を見せる。


「……悪くねぇな」


それだけを言い残して奏はマイクの前に戻った。


陽が座ったまま笑い出す。


「出たー!奏の『悪くねぇ』!!」


「え……?」


凪は事態を飲み込めないのか、ぽかんとして陽を見た。


「奏の『悪くねぇ』は最大級の褒め言葉なんだってよ!!」


陽が言うと、凪は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いた。


「え……そうなんだ……嬉しい、です」


それから顔を少しあげてにっこり笑う。


「俺も……楽しかった」


そう言う凪の顔が綺麗すぎて、朔ですら思わず見惚れそうになった。 


ふいっと奏が顔を逸らす。


「……お前、また来いよ」


珍しく奏から声をかける。


「えっ」


驚いたように凪が奏を見る。

予想外だったのは凪だけではなく、朔も陽も同様だった。


視線が奏に集まる。


「……お前の音、面白かった」


奏がそう言うと、凪は嬉しそうに笑った。


「ありがとう……奏さんの歌声も……やっぱり綺麗だった」


逸らした奏の目が大きく見開くのを朔は見逃さなかった。


「……もう少し、やってくか?」


朔が凪にそう提案すると、凪の顔がぱっと明るくなった。


「……いいんですか?」


「もちろんだ」


朔が答えると、陽がドラムをばーんと叩いた。


「もっとやろうぜぇー!!」


テンションがあがっている。


「うん、やる」


凪は嬉しそうに笑って奏を見た。


そしてまた、音が鳴り始める。


この音が、いずれNOCTISになると、この時の誰もがまだ知らない。



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