夜につかまる〜余韻〜
「凪、今日機嫌がいいね」
家に帰るなり、姉にそう言われた。
俺は驚いて振り向いた。
「え……そうかな……」
リビングのソファに座った姉は俺を見上げて、にっこり笑った。
「なんかいいこと、あった?」
ちょいちょいと手招きして、俺を隣に座らせる。
俺は大人しく、隣に座った。
少し、話すのは迷った。
でも、誰かに聞いてもらいたい気持ちもあった。
自分でも、珍しいとは思っていた。
少し、間を置いて俺は自分の手元を見つめた。
「……今日さ、すごく綺麗な人に会ったんだ」
姉は驚いたような表情で俺を見た。
ゆっくりと姉と目を合わせる。
「目が灰色で……すごく綺麗で……」
瞬きをすると、すぐに思い出せた。
……あの、強い夜みたいな瞳。
「……夜みたいだった」
自分でもすごく柔らかい顔してるんだろうなってわかった。
姉は俺と同じ顔で笑った。
「それにね……声もすごく綺麗で、もっと歌ってるとこ、見たいなって思った」
姉の手が、ゆっくりと俺の頭に乗せられる。
そして、ぽんっと撫でた。
「……良かったね」
俺は素直に頷いた。
「……うん。今度合わせて演奏してみようって、約束したんだ」
ポケットにしまったメモをそっと握る。
それだけが、今、彼と繋がってるもの。
「そっか……楽しみだね」
姉はまた柔らかく笑った。
少しだけ恥ずかしくなったけど、また頷く。
「……うん、楽しみ」
そう答えて、また彼のあの歌声を思い出していた。




