表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵闇に奏でる―NOCTIS STORY  作者: 夜月黎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/51

凱旋

「陽の母校から学祭のライブ依頼がきてる」


スケジュール合わせの時に、朔が言った。


「え、マジ!?」


陽が嬉しそうな顔をする。

すでに行く気満々だ。


「スケジュール的には結構ギリギリだが、どうする?」


朔が三人を見回す。


「行くに決まってんじゃん!!」


即答する陽。


「俺もいいよ」


凪も手をあげる。


奏は椅子の背もたれに身を預けて、怠そうに朔を見た。


「面倒くせぇから、やだ」


「ええっ、奏酷くね?」


ばんっとテーブルに手をついて陽が立ち上がる。


「お前らだけで行けば?」


「ボーカル行かなくてどーすんだよっ!?」


「陽、うるさい」


朔にたしなめられる。

それから、朔は奏を見る。


「奏」


奏が無言で朔を見る。

朔も何も言わない。


舌打ちした奏は朔から目を逸らす。


「……わかったよ、行けばいいんだろ」


不機嫌そうに答える。


「よっしゃー!!楽しみー!!」


陽が大声をあげる。

凪も楽しそうに笑った。


「学祭とか楽しそうだよね」


「めっちゃ楽しいぞー!凪行ったことねーの?」


凪は少し寂しそうに笑った。


「ないかな。俺、学祭の時もNOCTISのライブ入ってたりしたから」


朔が凪を見る。


「そうか、お前の学祭の時、初ツアーと被ってたな」


「じゃあ、ついでに屋台巡りとかしよーぜ!」


陽が調子に乗る。


「そうだね」


凪は笑って頷く。


「ちゃんとライブ終わってからだぞ」


朔が釘を刺す。


「わーってるってぇ」


陽が軽く頷く。

朔は信用していない目で陽を見て溜め息をついた。




賑やかな声が響く。

よく晴れた青空の下で、たくさんの模擬店が並ぶ。


「うわっ、懐かしぃー!!」


駐車場に降りて校内の方を見た陽が大声をあげる。


ふんわりと漂ってくる屋台の食べ物の香り。


「なぁ、なんか食べようぜ!」


陽が駆け出しそうになったところを、朔に捕まる。

盛大な溜め息が陽の頭上に落ちる。


「ライブ終わってからと言っただろうが」


「……あ」


しゅんとなる陽。

凪が横でくすくすと笑ってる。


「陽、高校生に戻ったみたいだね」


奏は呆れ顔で一番後ろに立っていた。


「NOCTISの皆さん、こちらです」


案内役の教師が頭を下げながら近づいてくる。

朔を先頭についていく。


校舎に入る時に少しだけ、生徒の前を通ると、ざわめきが起きる。


「え、NOCTISの人、この学校の卒業生ってマジだったんだ!?」


「マジで学祭ライブでてくれんの!?」


「ボーカルかっこいい!!」


朔は無言で通りすぎ、奏もその後に続く。

凪はにっこり笑って手を振り、陽は立ち止まって腕を振っている。


「よろしくなぁっー!」


満面の笑みで愛想を振りまいている陽に、校舎の中から朔の声が飛ぶ。


「陽っ!早くしろっ!」


周囲の生徒から、くすくす笑い声があがる。


「はーい……」


陽は引きつった笑いを浮かべながら、校舎に入った。



そのまま、控室になっている教室に入る。

遠くに喧騒が聞こえる。


懐かしい、学校のざわめき。

生徒達の声。


奏は少しだけ、朔と出会った頃の事を思い浮かべていた。


「どうした?奏」


教室の入口でぼーっとしていた奏に朔が声をかける。


「あ?……なんでもない」


奏は我に返って用意された椅子に座った。

朔と凪も座る。


陽だけが教室をウロウロしながら、廊下や校庭をのぞき込んでは騒いでいる。


「うっわー、全然変わってねぇー!懐かしいーっ」


「陽、少し落ち着け」


冷静に朔が陽を嗜める。


「だってさぁ、テンション上がんだろっ」


「陽、うるせぇ」


奏も陽を睨む。


「ふふっ、陽は高校生の頃から成長してないみたいだね」


凪は笑顔で陽を刺す。


「えっ、流石にそれは……」


凪の言葉に流石に大人しくなった陽がしょぼんと椅子に座る。


「……あぁ、帰りてぇ」


怠そうに奏が呟く。

朔は溜め息をついた。


「奏」


朔は一言だけ言って鋭い目で奏を見た。

奏は不機嫌そうに目を逸らす。


「学祭は待ち時間長ぇから、嫌なんだよ」


「仕方ないだろ」


朔がまた溜め息を吐く。


「奏らしい理由だね」


凪が笑う。


「うるせぇ」


奏は不機嫌そうに答える。


その時、廊下から声が聞こえる。


「え、ホントにいるの?!」


「いるって!見えるよ」


「私、ボーカルのビジュ好きなんだよね」


「え、ベースの人、カッコよくない!?」


数人の生徒が廊下から覗いている。

しかし、すぐに、


「こらっ、この教室に近づくなって言っただろうが!!」


案内役の教師の怒声が飛び、生徒達は逃げていった。


ガラッと扉が開いて、その教師が入ってくる。


「すみません、おまたせしました。そろそろ移動お願いします」


四人は揃って体育館へと向かった。



幕の降りたステージの上で準備を始める。


凪のギターのチューニングの音がなり始め、幕の外からは少しだけ歓声があがる。


陽が椅子に座り、軽くドラムを叩く。

朔はチューニングを終え、段取りの最終チェックをしている。


奏は閉じていた目を開いて、マイクの前に立つ。

ひとつ深呼吸をしてから、イヤモニをつける。


さっきまでのやる気のなさそうな雰囲気は微塵も残っていない。


幕があがる。


陽のスティックがカウントを始め、凪のギターが高らかに響く。


朔のベースが乗り、そこへ奏の歌声が弾ける。


いきなりの激しいロックナンバー。


体育館中にうねるような歓声が沸き起こった。


気づけば生徒全員が立ち上がり、腕を天井に向けて振っていた。

体育館を揺らすほどの熱気が支配していた。


数曲終わった後で陽がマイクを手に取る。


「えー、今日は俺たちを呼んでくれてありがとうございます。この高校出身の朝霧陽です」


拍手が起きる。


珍しくまともな挨拶をしている陽に奏は苦笑した。


「俺がNOCTISのメンバーに出会えたのも、この高校に通ってる時でした。なんか、つまんねぇなぁって思うこともあるかもしんないけど、俺みたいに人生変えるような出来事もあるかもしんない時期だと思います」


少しだけ照れながら、陽は笑った。


「だから、俺たちの曲聞いて『頑張ろ』って思ってくれたら嬉しいです!」


ぺこっと頭を下げて陽はマイクを置いた。


もう一度拍手が起こる。


「朝霧先輩カッコいい!」


「陽ーっ」


陽への声援が湧き上がり、陽は嬉しそうに手をあげた。


そして、またスティックを鳴らす。

少し切なめのギターが鳴る。


次はバラードだ。

体育館に静寂が訪れ、そこへ高く良く伸びる奏の声が響いた。


客席には静けさが広がり、時折鼻をすする音が聞こえた。


バラードが終わると、奏はにやっと笑って客席を指差す。


「次、最後な」


悲鳴のような歓声が沸き起こり、体育館中がまた熱気に包まれる。


魂の叫びのような歌が、終わる。


拍手と共に湧き上がる、歓声。


「夜宮さーん!!カッコいい!!」


「奏さん!こっち見てぇー!」


女子生徒だけでなく、男子生徒からも歓声が聞こえる。


「NOCTIS最高っ!!」


「かっけぇー!!」


その後、体育館中からあがる「アンコール」の声を背に、四人はステージを降りた。



控室に戻ると、早速陽が騒ぎ出す。


「なぁ、凪、屋台巡りしようぜ」


「……お前、元気だな」


奏が呆れたように言う。

陽は詰め寄るように奏を見上げた。


「学祭って言ったら屋台だろっ!!な、凪、行こうぜ」


それから凪を振り返る。


「いいよ、俺も屋台見てみたい」


凪がにっこり笑って答える。

それから奏を見る。


「奏も行こ?」


奏は面倒くさそうに凪を見た。


「……めんどくせぇな……」


そう言いつつも否定しない。


「じゃあ、皆で行こうぜ!!」


陽は意気揚々と控室を出た。



校舎の外へ出ると、ところ狭しと屋台が並ぶ。

いい匂いが漂ってくる。


「なぁ、凪、焼きそば食べようぜ?」


「え、俺甘いのがいい」


そんなことを言いながら、凪と陽が前を歩く。

その後ろを朔と、怠そうに奏がついて行く。


「奏は何食べたい?」


凪が振り返る。


ポケットに手を突っ込んだまま、奏は不機嫌そうに答える。


「……なんでもいい」


凪は呆れたように溜め息をついて、奏を見上げた。


「そんなこと言ってると、甘いもの食べさせるよ?」


奏は嫌そうな顔で溜め息をつく。


「……じゃあ、焼きそば」


「じゃあ、やっぱ最初に焼きそばだぁ!」


陽が大喜びしながら焼きそばの屋台へ並ぶ。

凪も陽と一緒に並び、奏と朔は後ろの方で待っている。


すると……。


「あ、あの夜宮さんっ、さっきカッコよかったです!」


女子生徒が寄ってくる。


一人が寄ってくると、数人が集まってきた。


「あのっ、握手してください!」


「サインくださいっ」


「一緒に写真……」


奏は怠そうに見下ろしてから、ふいっと朔を見る。

朔の目がじっと奏を見ていた。


……ちゃんと相手しろってことか……。


諦めたように溜め息をついてから、奏は少しだけ口元に笑みを浮かべる。


「ありがとな、でも、サインはちょっと……」


「えぇー?」


「握手くらいならいいけど、写真は……」


そう言ってもう一度朔を見ると、首を横に振っている。


「写真はごめんな」


そう答えると再び落胆の声があがるが、握手をしてもらおうと更に人が増えた。


奏は一瞬顔をしかめたが、仕方なく一人ひとりと握手を始めた。


そこへ、凪と陽が戻って来る。


「なんで奏の周りにはあんなに人が集まってんだよっ!!」


両手に焼きそばを持って陽が吠える。


「まぁ、奏だからね」


凪はくすっと笑って陽の肩を叩く。


「くっそー、ここは俺の母校なんだよっ」


陽の叫びに数人が振り返る。


「あ、陽先輩だ」


「陽先輩ってクラスに一人はいそうなんだよね」


「隣いるの天音さんだ。カッコいい」


「なんか、凪くんって呼びたくなるね」


陽がぷるぷる震えている。


「なんかっ、俺の扱い酷くねっ!?」


「陽だからな」


いつの間にか隣に来ていた朔が、ふっと笑う。


「陽だからね」


凪もまた笑った。


奏だけが、終始不機嫌そうに生徒たちと握手していた。


しばらくして、ようやく解放された奏がやってくる。


「……疲れた」


ぐったりとしながら、先に座っていた三人を見る。


「奏、お疲れ様」


凪がにっこり笑って焼きそばを差し出す。

陽は顔をしかめて腕を組んでいる。


「……お前、なんでそんなしけた面してんだよ」


奏は陽を見ながら、腰掛ける。


「人気者にはわかんねーだろっ」


「は?」


「陽は奏ばっかり人気で拗ねてんだ」


朔が苦笑すると奏は心底呆れた顔をした。


「馬鹿らしい」


「うっせぇ、奏、黙れ」


珍しく不機嫌な陽に奏は苦笑した。

そして渡された焼きそばを食べ始める。


「……これ、冷めてんな」


「文句あんなら自分で買ってこいっ」


陽の言葉に朔と凪は顔を見合わせて苦笑していた。


奏は……文句を言いながらも焼きそばを完食していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ