朔と猫
休憩中、全員で食事に向かう途中だった。
建物の隙間から猫が飛び出してくる。
「うわっ」
陽が引っかかって転びそうになり、大声をあげる。
なんとか持ちこたえた陽は自分の足元の猫を見下ろした。
猫は陽の足元にすり寄っている。
「お、猫じゃん」
しゃがみ込んで撫でる。
凪もしゃがみ込んで、猫を覗く。
「人懐っこいね」
ゴロゴロと喉を鳴らして陽に撫でられる猫。
「ふわっふわしてるけど、野良かなぁ?」
にまにましながら、陽が猫を抱き上げる。
「気安く抱き上げるな」
後ろから朔が注意する。
「え、なんで?」
きょとんとした陽が朔を振り返る。
「……猫が驚くだろうが」
「は?」
陽はぽかんとして朔を見上げた。
「猫が怪我したらどうする」
「大丈夫だろ?猫だぜ?」
「いや、早く離してやれ」
陽は仕方なく猫を離す。
地面に降ろされた猫は、今度は凪にすり寄る。
「ふふっ、可愛いね」
凪はそのまま猫の背中を撫でる。
奏は離れたところでそれを見ていた。
「奏もおいでよ?」
凪が奏を見上げた。
「……いい」
低い声が断る。
「えー?こんなに可愛いのに?」
奏は面倒くさそうに頭を掻いた。
「猫、苦手なんだよ」
「奏も猫っぽいもんな!同族嫌悪?」
陽がからかうように笑った。
「……うっせぇ」
「奏も……猫っぽい……」
凪が陽の言葉を繰り返して、くすっと笑う。
「そうだね」
「凪まで……」
目を細めて凪を見る。
「朔は触らないの?」
凪のその言葉に朔はピクっと反応する。
「……いい」
「え?そんなに笑顔で見てるのに?」
「え?」
凪に言われ、朔は真顔に戻る。
陽がにやにやする。
「朔は猫が好きなのかぁ?」
「……」
朔は答えずに陽を見下ろす。
ふっと奏が笑う。
「……バレちまったな」
「奏は知ってたの?」
「ええ、教えろよ、そんな面白いネタ」
「奏」
朔の声が飛ぶ。
「あ」
奏は右手で口を抑えた。
「……余計なことを言うな」
朔が奏を鋭い目で見た。
「やっぱり好きなんだね、おいでよ?」
凪がにこっと笑う。
朔はチラッと猫を見る。
「……そこまで言うなら」
少しだけ躊躇してから、朔はそっと近づいた。
きょとんとした顔で猫は朔を見上げ、近寄る。
それから、か細い声でにゃあと鳴いた。
朔の表情が緩む。
優しい目が猫に注がれ、大きな手が柔らかく猫を撫でる。
「おまっ、その表情っ」
陽が必死に笑いを堪えている。
「ふふっ、朔、優しいね?」
凪に笑顔で言われ朔は、はっと手を引く。
そして立ち上がり、一言。
「……行くぞ」
奏はそのすぐ後をついて行く。
「お前、相変わらずだな」
「奏、うるさい」
奏はふっと笑って朔の横に並んで歩いた。
「あ、待って」
凪が二人を追いかける。
「えっ、置いてくなよっ」
陽も慌てて立ち上がる。
それから、チラッと猫を振り返り、
「またなっ」
猫に笑顔で言って陽も追いかけた。
猫は答えるようにまた、にゃあーと鳴いて四人を見ていた。




