奏の休日
ライブの翌日は、奏は死んだように眠っている。
消耗が激しすぎて、起きれないと言った方が正しい。
だいたいいつもそうだ。
その日もいつものように、昼過ぎても寝ていた。
枕元でスマホが震える。
怠そうに手を伸ばし、チラッと見る。
画面に映る文字は、朝霧陽。
メッセージが届いていた。
「面倒くせぇ……」
それだけ呟いて、中身は確認せず、スマホを戻す。
そして、再び目を閉じた。
眠りに落ちて少し経った頃。
インターホンが鳴る。
ピクっと少しだけ体が反応する。
しかし、起きない。
寝返りを打っただけで、そのまま寝続ける。
だが――
ガチャ。
玄関の開く音がする。
「……は?」
音に反応し、顔をあげる。
そして、寝室のドアが開く。
「奏、おっはよー!!」
元気いっぱいに入って来たのは、陽だった。
奏は一気に不機嫌になる。
「……なんでお前がいんだよ」
「え?ちゃんとメッセージ送ったぞ?」
きょとんとする陽を奏は睨む。
「返事してねぇだろうが」
起き上がって、怠そうに頭を掻く。
「だいたいどうやって……」
「……奏、おはよ」
「お前はまだ寝てたのか」
陽の後ろから凪と朔も入ってくる。
奏は朔を見て溜め息をついた。
「朔……お前が開けたのか」
朔がニヤッと笑う。
「陽が開けろってうるさかったからな」
「開けんなよ」
奏は不機嫌そうに言った。
「いいじゃん、皆でご飯行こうぜ」
陽が親指を立てる。
「行かねぇよ」
即答する奏の横に凪が座る。
「ごめんね?寝てるとは思ったんだけど……」
凪がにこっと笑う。
「奏だけ仲間外れになっちゃうかと思って」
「……」
奏は無言で凪を見た。
「……面倒くせぇな」
そう言いながら、立ち上がる。
朔はふっと笑って陽を見る。
「凪連れてきて正解だっただろ?」
「なんか納得いかねぇけど、やっぱ奏、凪には甘いな……」
陽は口を尖らせて凪を見る。
凪は首を傾げながら、にこっと笑った。
「……本人、わかってねーしな」
「……陽」
奏の低い声が陽を呼ぶ。
咄嗟に陽は振り向く。
「黙れ」
いつものセリフが飛んでくる。
「はいはいっと」
陽は軽く流す。
「朔、お前も余計なことすんな」
矛先は朔にも向かう。
しかし、朔は気にする様子もなかった。
「そうでもしないと、お前は一日引きこもるからな」
「……ライブの次の日くらい、引きこもらせろよ」
図星だった奏はぶつぶつ言いながら、着替えるために寝室を出て行った。
当然のように三人も後をついて行った。
外に出ると太陽は既に高い。
「眩しっ」
奏は目を細めた。
「そりゃ、もう昼過ぎてるからな」
陽が突っ込む。
「休みの日はまだ寝てる時間なんだよ……」
奏が不機嫌そうに返す。
「奏は夜が活動時間だもんね?」
凪が笑って言う。
「……うるせぇ」
隣で朔が溜め息をつく。
「お前はもうちょっと規則正しい生活をしろ」
「……普段はしてんだろ……」
朔の冷たい目が奏を見た。
「休みの日も含めてだ」
奏は答えずに、短く溜め息を吐いた。
「なぁ、腹減ったー!どこ行く?」
歩きながら陽が大声を出す。
奏は呆れて陽を見た。
「なんだよ、ひとんち押し寄せといて行くとこ決まってねぇのかよ?」
「奏も一緒に決めた方がいいでしょ?」
凪が奏を振り返る。
「別にいいよ……面倒くせぇ」
朔も振り返る。
「お前はもう少し協調性も持て」
「うるせぇ」
ふふっと凪が笑う。
「それも含めて奏でしょ?」
朔と陽は凪を見た。
陽が吹き出す。
「間違いないなっ。協調性ある奏とか、なんか怖ぇな」
奏が冷めた目で陽を見下ろす。
「黙れ」
「ひっでぇな、なんで俺ばっかいっつも、黙れ、なんだよ!!」
朔が口元を緩める。
「陽だからな」
「陽は余計なこと言うからね」
凪も笑いながら言う。
奏は無言のまま歩く。
――休みのはずだったのに。
結局、静かな休日にはならなかった。




