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神保が気になる。気になって仕方がない。この謎を解かぬ限り、恋わずらいに似たこの症状は治まらない気がする。
「聞いとる? カケス」
「え?」
突然、掛川のアップが目の前にあった。
というか、掛川はずっと目の前で何やらしゃべっていたのだ。カケスの意識が、飛んでいただけだ。
さまよいかけていた魂を無理矢理身体に戻すと、掛川が「はは~ん」としたり顔で頷いた。
「好きな女子のことでも考えとったんやろ? どこのどなたさんや。白状せい」
「いや、女子ではなく、男子のこと考えてたんだけど」
「は?」
掛川が大袈裟に身体を遠ざけたので、カケスは慌てて手を振った。
「違う違う、男子に恋してるわけじゃないから」
「はあ、なんや。カケスそっちの人かと思った」
「そっちの人って何だよ、そっちの人って。かけっちって、差別する系?」
「バカを言いなさい。俺なんか、びっくりするほど無差別男やで。LGBT上等や。カケスが男好きでも、変わらず仲良しやゆうねん。……オレに迫らんかったらな」
「まあまあ小さいじゃん、器」
それに仮に「そっちの人」だったとしても、掛川はタイプじゃないと思う。友達としては最高なのだが。
「あれ? じゃあなんで、どこかの男子さんに思いを馳せてたん?」
「いやあ、ちょっと謎なやつがいてさ。ところで、かけっちはどんな子がタイプなの?」
あまり詮索されると面倒なので、カケスは話題を変えた。色恋話は老若男女問わず盛り上がる話題なので、掛川はあっさりとそれに乗っかってくれる。
「オレか~。そやな、優等生タイプが好きかもしれん。学級委員長みたいな。自分が体育会でアホやから、彼女にはしっかりしてて欲しいみたいな」
「確かに~。かけっちアホだもんね」
「誰がアホやねん。そこは否定せい。自分で言うたのは、ただの謙遜や」
掛川が真顔で怒り、その後二人で爆笑する。
ちなみに掛川は頭の回転が速く、情報通なのでアホではない。部活で忙しいので、授業の成績は芳しくないが。
「カケスは、どんな子がタイプなん?」
「う~ん。小学校の時好きだった子は、小柄で笑顔が可愛いかったかな」
「小柄は重要やな。カケス、チビやから」
「誰がチビやねん。他人に言われると、腹立つわ」
カケスが掛川のマネをして怒ると、掛川は「ごめん、ごめん」と笑った。
「その子とは、どうなったん?」
「えぐるなあ。振られた。オレが遠い学校受けたからって言われたけど、言い訳かも」
「そうか、すまん。まあ、あれや。気にすんな。カケスはええ男や。ただ、初恋は実らんとかいうやろ? おかんの受け売りやけど」
掛川は本当にすまなそうに言った。優しいやつなのだ。初恋は幼稚園の時なのだが、訂正するのはやめておいた。
「なあ、かけっち……」
「ん~?」
「いや、何でもない」
掛川は信用できそうなので、一瞬神保のことを話してみようかと思ったが、思いとどまった。神保の家庭環境が複雑で、万が一DV事案だとしたら、むやみに話して、噂にでもなったら大変だ。
でも、気になる。気になって仕方ない。誰かに話したい。
「なんか変やな、カケス。気になることがあったら、相談した方がいいで。オレやなくても、先生とか」
「う~ん。気になるっていうか……。あ、そうだかけっち、針って裁縫以外に、どんな使い道あるか知ってる?」
「なんや、いきなり。謎かけかいな」
掛川は、カケスが変なことを聞いたので、面食らったような顔をした。それでも真剣な顔をして、考えてくれる。
「う~ん。指に棘が刺さったときに、ほじくり出す? あと、針治療とかかなあ。うちのおかんがたまに行くけど、肩こりにいいらしい」
「あの針って、普通の針なの?」
「さあ? もっと細いんちゃうの? 普通の針なら、痛そうやな。血ぃとか出そうやし」
「確かに。さすがに普通の針じゃ……」
そこまで言って、カケスはハタと思い当たった。突然、首筋に針を刺すシーンが浮かんだのだ。古い映画で、見たことがある。
「サンキュー、かけっち。だいぶ謎が解けてきた」
「謎? やっぱり謎かけやったんかい。で、何が正解なの?」
「うん。あとで教えてあげる。オレ、ちょっと電話」
カケスは鞄からスマホを取り出し、階段の踊り場に駆けた。掛川のぽかんとした顔を置き去りに。
あの映像が正しければ、電話を掛ける相手は一人しかいなかった。




