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こうして並んでみると、神保はカケスより幾分背が高かった。五センチくらいは違いそうだ。チビ仲間と思っていたので、ちょっと悔しい。
「神保くんちって、この辺のアパートなんだって?」
雪兎堂までは、割と距離がある。共通の話題もないので、噂に聞いたそんな話を振ってみる。
「うん。あそこのアパート」
雪兎堂へ行く道の反対側を、神保は指さす。100メートルほど先にある、古びた三階建てのアパートは、築三十年といったところだった。いくら他校より学費が安めとはいえ、私立中学に通う生徒の生家としては、いささか庶民的な気がした。
「めっちゃ近いじゃん。羨ましいな」
「管野くんは、通いだっけ?」
「うん。俺んち東京駅の近くだから、結構時間がかかるんだ」
「あんまり遅くなると、家族が心配しないの?」
「俺んちの母ちゃん、超放任だから大丈夫。父ちゃんは吟遊詩人で、今家にいないし」
「吟遊詩人って、何?」
「雑誌とかに、詩を書いてるんだ。まあ世間的には、作家っていうこと。それだけじゃ食っていけないから、紀行エッセイなんかも書いてるんだよね。だから年の半分以上、旅に出てる」
「へえ、すごいね」
変な家庭という意味では、すごいのかもしれない。なお、家計の大部分は、弁護士である母親が出している。
話しているうちに雪兎堂についた。こぢんまりした建物も、入口にかかった暖簾も真っ白で、赤字の店名が白うさぎの目みたいで可愛い。
カケスはあんみつ、神保は豆かんを頼んだ。
カケスは本当はクリームあんみつにしたかったのだが、100円の差は中学生にとっては重大なので諦めた。まあ、ノーマルのあんみつも、自家製黒蜜がかかっていて、十分美味しい。
イチゴとキウイとみかんが乗ったカラフルなあんみつに比して、神保の豆かんは渋いモノトーンだった。失礼ながら、どこか老成した神保に似合っている。
「神保くんのお父さんって、何している人?」
吟遊詩人よりは普通だろうと思って聞いてみると、意外な答が返ってきた。
「うん。お掃除レンジャーって知ってる? そこで働いてる。家事代行っていうみたいなんだけど」
「え、あの迷彩の帽子被ってて、「はい」の代わりに「レンジャー」っていう掃除の人? めっちゃ興味ある。家でも「レンジャー」って言うの?」
「言わない」
神保は珍しく笑った。
「うそっ。母ちゃんに怒られたとき、「レンジャー」って言わないの?」
「うち母親いないから。一昨年離婚した」
「あ、そうなんだ。ごめん」
「別にいいよ」
神保は本当に気にした風もなく、豆かんを淡々と口に運んだ。まあ、今時離婚など珍しくもないし、カケスの家庭も父不在が常態だ。ご近所には、母子家庭に見えているかもしれない。
「神保くんって、何かスポーツやってた?」
カケスは気を遣ったわけでもないが、話題を変えた。神保運動神経良い疑惑の真相を知りたかったのだ。
「前住んでたとこで空手道場に通ってたけど、途中で辞めちゃった」
「空手! やっぱりな。オレ神保くんって、絶対運動神経いいと思ってたんだ。体幹しっかりしてるみたいな」
「全然。おれ才能ないから、期待されていなかった。辞めるときも引き留められなかったし。茶帯も取れないうちに辞めちゃったから、あんまり人に言わないようにしてるんだ」
「へえ、もったいない。オレ結構見る目あるんだけど、神保くん絶対伸びるタイプだよ。続けてれば、結構いい線行くと思った」
「ありがとう。って、管野くん、武道やってたの?」
「ううん。直感」
「なんだ」
神保はまた笑う。
普段神妙な顔で俯いてばかりいるので、カケスはちょっと嬉しかった。母親の事務所の事務員に「コミュ力おばけ」と言われたことがあるが、案外的を射ているのかもしれない。
神保は温和しいので沈黙が続くかと思ったが、意外と話しやすかった。控えめだけど会話のキャッチボールはできるし、とても常識的だ。やはりこいつはすごいやつなのだと、カケスは確信した。




