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入学してから半年も経つと、自然とクラスの力関係が決まってくる。スクールカーストというのも死語に近いが、それでもグループ間の暗黙の序列が生まれれていた。カケスはちょっと異質で、どこのグループにも属さない代わりに、序列の枠外にいる捉えどころのない根なし草といった立ち位置だった。
あっけらかんとした性格の掛川は、主にバレーボール部グループにいたが、カケスとは妙に気が合い、今も仲良くしていた。学生の頃の親友なんて、結局席が近いとか部活が一緒とか、そんなことで決まるのだ。
「カケっち、今日暇? あんみつ食いにいかん?」
金曜日の放課後。特に予定のないカケスは、前の席で帰り支度をする掛川に話しかけた。
「雪兎堂の? めっちゃ行きたいけど、これから部活やねん。土曜に練習試合あるから。カケスはええなあ、自由人で」
当初「くん」付けで呼び合っていた仲も、気心が知れた今は、「カケス」「カケっち」である。カケかぶりだとクラスの皆に良く笑われる。
眉を八の字にして残念そうに言う掛川は、スポーツバッグを肩にかけ、バレー部の仲間に声をかける。その他の生徒も三々五々教室を後にしだしている。掛川はスポーツ推薦なので連日部活なのは致し方ないが、断られると無償にあんみつが食べたくなるのが人情というものである。
カケスは人間関係に垣根がないタイプなので、もし暇そうにしている人間がいれば誘ってみようと視線を巡らせた。
視線の先、窓側最前列の六角が目に入った。近くには、彼の唯一の友人、神保が立っている。
クラス内の序列で言うと、最底辺にいるのは六角と、首席で入学した古神凜という天才少年だった。奇しくも、入学時に一番目立った二人である。 六角は六角グループの息子であるし、古神は天才の宇宙人(掛川談)なので、皆あからさまにいじめたりはしないが、それでも敬遠され見下されていた。二人の違いと言えば、完全に孤立している古神と違い、六角には神保という友達がいることだ。
神保は神保で、温和しい地味な少年だった。クラスになじめないもの同士、肩を寄せ合って仲良くしている印象である。
なお、古神凜を巡るゴタゴタに、カケスは後ほど巻き込まれることになるのだが(詳細は、ナハトムジーク参照)、それはまた後の話……。
六角と神保は、カケスが普段交流しない二人だった。普通なら話しかけないところだが、何となく声をかけたくなったカケスは、そうした。
「六角くんと神保くん、今日暇? あんみつ食いにいかない?」
声をかけられることを想定していなかったのか、六角の肩が大きくはねた。神保はただぼんやりと、カケスに視線を向ける。
話しかけてきたのがカケスと分かったとたん、六角は幾分ほっとした顔をした。人に緊張を強いない雰囲気は、父譲りのものだとカケスは思っている。
「あ、僕はお迎えが来るから……」
六角は相変わらず、車で送迎されていた。さすがに滋賀の実家から通学するのは厳しかったようで、構外の高級マンションで母親と二人暮らしをしているらしい。運転手と家政婦がいるあたりは、さすがでお金持ちである。
ちなみに、初日に絡んできた三年生は、一か月ほどしてからぱったりと姿を現さなくなった。一番ボスっぽい松前という柔道部員が、他校の生徒と問題を起こし、退学処分になったのだ。六角家の圧力がかかったという噂もあったが、本人は否定している。
「神保くんは?」
「あ、オレは暇だけど……」
神保は視線を泳がせる。内向的人間は、ただのクラスメイトといきなりサシで飲食を共にするのはハードルが高かろう。しかしそう言うものを乗り越えて、一は交友関係を作っていくものだ。
断られなかったのをいいことに、
「じゃ、決まりね」
カケスは即決した
実のところカケスは、神保に少し興味があった。神保は目立たない存在だったが、勉強も運動もそつなくこなしている。特に運動に関しては、底知れぬポテンシャルを感じる。小柄で痩せているが、軸がぶれていないというか、しなやかというか、とにかく本気を出したらスポーツ推薦狙えたんじゃないかと疑っている。
神保は六角にモゴモゴと何か伝えると、鞄を取るために自席に戻った。六角は特に表情を変えず、カケスとも目を合わせず窓の外に視線を逸らした。外塀の角に車が駐まるのを確認してから、教室を出るのが六角の日課だ。さすがに正門前に車を乗り付けたのは初日だけだった。




