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この度は、お読みいただきありがとうございます。


この話は三部作で、第一部の「コミュ力おばけカケス編」になります。


どうぞよろしくお願いいたします。

 寮のある中学校というのも、意外とこの日本には存在している。オンライン化が進んだ現在、そのうち過去の遺物となるのかもしれないが、まだまだ需要がある。

 管野カケスが入学したこの中高一貫校も、その一つであった。有名大学への進学率のみならず、スポーツが強いことも売りの学校なので、長く生き残るかもしれない。もっともカケスは、スポーツ特待生ではない。

 新しいクラスでの初めての休み時間、前の席の掛川が、キラキラした目で話しかけてきた。

「管野くんは、東京の子やろ? 通っとるん?」

「うん。掛川くんは寮生? どこ出身?」

 どう考えても関西方言なので、そう聞いてみる。

「オレ、神戸やねん。寮生半分くらいって話やけど、結構関西少ないねん。東京弁覚えなあかんな。よろしくな」

 爽やかに笑う掛川は、背が高くて細身だ。たれ気味の眉が特徴の、憎めない印象の男子生徒である。うちの学校は武道の強豪だが、球技もそこそこ強いので、バレーボールかバスケットボールの選手だなと推理した。

 聞いてみると、当たっていた。小学校時代からバレーボールをやっていて、コーチの勧めでこの中学に進学したのだという。

「中学からバレーばっかできるとこ、結構少ないねん。オレ勉強できんし、おとん説得して入らせてもらった。管野くんは、卓球かなんか?」

 カケスは思わず笑ってしまう。

「それ、オレがチビだからそう思ったんでしょう? 残念ながら、スポーツじゃなくて受験して入ったの。もっとも、ギリギリだったけど」

「うそ。めっちゃ頭ええやん。ギリギリゆうても勉強で入るの難しいって聞いたで」

「オレ的にも、奇跡。ここ私立で高いから、親もどうせ受かるわけないと思って受験させてくれたんだけど、受かったから白目剥いてた」

「何、管野くんち貧乏なん?」

「う~ん。微妙。かーちゃんは実家が裕福な弁護士だけど、とーちゃんは吟遊詩人で、ほとんど儲かってないから」

「なんやそれ。ウケる」

 色の薄い髪を掻き上げながら、掛川は笑う。あっけらかんとした笑顔に、仲良くなれそうだなとカケスは思った。

 ちなみに、この学校の方針で、スポーツ入学組と一般入試組のクラスは分けていない。留学生もちらほらいる。多様性を重視してのことらしいが、授業内容によって頻繁に他教室や体育館へ異動になるので、少し混乱する。大学生みたいだ。

 その時、三人組のガタイの良い先輩が、荒々しく教室のドアを開けた。

「六角くん、いる?」

 一番先頭の、身長百八十センチはあろうかという巨漢の先輩が、太い声で言う。本当に中学生なのかと疑いたくなる見た目だが、制服を着ているので生徒であることは間違いない。

 教室中がしーんと静まりかえる。巨漢の右横のスキンヘッドに睨まれた女子が、奥の最前列で震えて下を向く六角を示した。

「六角くん、俺柔道部で三年の松前。お父さんによろしく言っといて」

「は、はい……」

 蛇に睨まれた蛙という表現ぴったりの怯えた様子で、俯いたまま六角は答えた。お父さんに何をよろしく言うのだろうと、カケスは疑問に思った。

 ものすごい威圧感を放ちながら、六角の机の前で他の二人も同様の台詞を吐く。六角はもげそうな勢いで、首を縦に振っている。カケスの位置からは六角の背中しか見えないが、泣いている可能性すらあった。

「送迎の車、一番良いテスラじゃん。今度乗せてよ、六角くん。仲良くしようぜ。じゃあな」

 三人組は、上機嫌で我が一年B組を後にした。

 ドアがぴしゃりと閉まり、足音が完全に聞こえなくなってから、教室中がざわめき出す。ヒソヒソとしたうわさ話の中、しかし誰も六角に近寄ろうとしなかった。

 親が変人すぎて免疫力のある、おそらく一番動揺していないであろうカケスも、声をかけなかった。声をかけても、話すことがない。

「ヤバいなあ。あの先輩ら、柔道部って言ってたけど、大会で見たことないから、多分落ちこぼれや。問題起こしたところで痛くもかゆくもないなら、なにするかわからんやろ。大丈夫かなあ、六角くん」

「お父さんによろしくって、どういうことだろう?」

 うわさ話は好きではないが、気になったので掛川に聞いてみる。掛川はキョトンとした顔で言った。

「なんや、知らんの? 六角くんのおやじ、この学校の経営者やで。高校への持ち上がり厳しいから、口きいてくれゆうことちゃうの?」

「え? もしかして六角くんのお父さんって、六角グループの……」

「そ。社長さんだか会長さんやで。あ、会長はじいちゃんか。とにかく、あの六角グループの子ぉやから、相当なボンボンやんな」

 六角グループといえば、いくつもの法人を経営する大企業だ。一番有名なのは滋賀にある製薬会社で、日本人なら誰もがお世話になっている常備薬を作っている。そんな有名人が同じクラスとは、今の今まで知らなかった。

「嘘か本当か知らんけど、滋賀の小学校でいじめられてて、しょうがなしにこの学校に入学させたらしいで。もちろんスポーツ推薦じゃないし、試験の点数も合格点に達してなかったけど、親の権力でねじ込んだって噂で聞いた。結構反感買ってる。ま、オレはどうでもええねんけど」

 情報通の掛川は、そんな裏情報まで教えてくれた。ひ弱そうな大企業の御曹司は、まだ下を向いたまま震えている。まことしやかなうわさ話は、俄然信憑性を増すのだった。


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