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その日の放課後。
とりあえずダメ元で、リンの連絡先を母に聞くべく駅へ急いでいたカケスは、近道の細い路地で足を止めた。生け垣の陰、跪いて用水路に嘔吐する、我が校の制服を着た女子を発見する。
あたりには誰もいない。
カケスだったら放っておいて欲しいシチュエーションなのだが、性格上放っておけずに駆けつける。
「大丈夫? 体調悪い?」
口元をハンカチで拭って顔を上げたのは、クラスメイトの笹塚富妃だった。
「大丈夫。ちょっと疲れちゃって」
弱々しい声で答える彼女の顔は、幾分青ざめていた。
アイドルグループにいてもおかしくない可愛らしい顔をしているのに、いつも自信なさげでオドオドしている。決して自己主張せずに、周りに合わせてニコニコしている。富妃はそんな女の子だった。
外見と相まって、その控えめな態度がクラスの男子に人気なのだが、「華やかでハキハキ」が好みの、カケスのタイプではない。
「笹塚さんって、電車通学だっったけ? 大丈夫? 電車乗れる?」
「うん。ちょっと休んだら大丈夫」
「東京方面だよね? オレ一本遅らせるから、一緒に帰ろう」
カケスの言葉に、富妃はぱっと顔を上げた。
「え、……いいの?」
「うん。どうせ、暇だし」
本当は、早く帰って、母にリンの連絡先を聞きたかったのだが、こんな状態の女子を放っておいたら男が廃る。
日本文学を強制的にたたき込まれているカケスは、変なところで侠気があった。
「炭酸飲むか、アイス食べたら治りそうじゃない? 駅の自販機に売ってたよ」
しかし奢ると言えないところが、しょせんお小遣いカツカツの中学生である。
富妃は、野に咲く花がほどけるように笑った。チビのカケスと同じ目線。やっぱり、可愛いかもしれない。
しかし、そう思ったのもつかの間、数秒後には富妃は表情を暗くした。キョロキョロと周りを気にして、
「ありがとう。でも、やっぱり大丈夫。ちょっと忘れ物もしちゃったし、一回学校戻るね」
「え、そう? 一人で大丈夫」
「大丈夫。ありがとう。ごめんね、バイバイ」
思いの外強い口調で拒絶すると。数瞬感情を飲み込むように躊躇した後、富妃は足早に学校方面に戻っていった。
カケスはぽつんと取り残される。
まあ、あれだけ走れれば、体調面は本当に問題ないのだろう。しかし、何だかモヤモヤする。好きでもない子に振られたみたいな。




